第13話「私にできること」※美里

 遥がホワイトデーに横峯くんに告白すると言って会いに行った日の夜、メッセージを受信した私は、急いで遥の家へ向った。


「遥、どうしたの!?」


「じっばいじちゃっだよ〜みざどちゃ〜ん!」


「ちょっ、遥!?」


 玄関から飛び出してきた遥が、わんわんと泣きながら私の胸に飛び込んできた。

 ここまで号泣している姿は、遥と出会って以来初めてのことだった私も少し動揺した。


 失敗? 振られた? いや、ありえないでしょ。

 とりあえず遥を落ち着かせてから、部屋で事情を聞いた。


「はぁ〜、遥って肝心な時にやらかすのよね〜ホント」


「ごめん……」


「私に謝ってどうすんのよも〜」


 今までも何回かあったけど、これはちょっと最悪過ぎる。

 タイミング的にも。


「それでお姉様に1ヶ月は近づくなって言われたって?」


「うん……でも怒ってなかった」


「なら大丈夫よー。お姉様のことだから何か考えあるって。明日から私も協力してあげるから、とりあえず元気出しなさいって」


 お姉様は遥と横峯くんの仲をよく知っている。

 遥が酷いこと言っちゃったけど、絶対に悪いようにはしないだろう。


「うん……ありがとう」


 そう返事はしたものの、翌日からはずっと元気がなく思い詰めた表情をしていた。


 横峯くんを傷つけてしまったことをずっと悔いているのだろう。


 横峯くんの様子も何もなさ過ぎるのが逆におかしい。


 私はこれ以上、遥が心を痛めないようにできることはしてあげようと思った。


 *****


 2年生になって私と遥は同じクラスになった。

 私の前の席には遥がいて、窓際の一番前には横峯くん。


 もうずっと気にするように視線を送っているのが分かる。

 それはそうだろう。


 横峯くんの隣にいる花菱ひまりちゃん。

 学校でも遥に引けを取らない美少女と、楽しく話しているのを何もできない状況で見せられるのは苦痛でしかなかったと思う。


 私は時折、背中をポンと叩いて一声かけ、遥の気を少しでも和らげた。


 しばらくすると横峯くんがひまりちゃんを連れて私のところにやってきた。


 「神谷さん、僕の隣の席の花菱ひまりさん。料理研究部に入りたいんだって」


 「花菱ひまりです。ひまりでいいよ。よろしくねっ」


 そう言って満面の笑みで自己紹介してきたひまり。

 か……可愛い。その笑顔は反則じゃないかな。


 これはこのまま何もしなかったら遥もうかうかして居られないんじゃないかと思ってしまうほど。


 「神谷美里でーす。ひまりも私のことは美里でいいよー。よろしくー」


 「うん、じゃあ美里ちゃんって呼ぶねっ。あと……掛川さんも料理研究部だよね?」


 何で知っているんだろう。

 横峯くんの近くだから、顔を俯かせているがこのままだとまずいと思った私は、家庭科室にすぐに案内することにした。


「ひ……ひまり! とりあえずさっそく家庭科室に行こ!」


「うん! じゃあね修くん!」


「またね、ひまり」


 そうして遥の背中をグイグイ押してその場から離れた。


 *****


 お姉様がクラスから去ったあと、何があったのか横峯くんに問いただすと、遥の連絡先を聞かれたけど知らないと言って断ったらしい。


 私は遥がずっと横峯くんから既読がつかないと言われたのが気になってたから、何か関係があるのかと考えていた。


 翌日、横峯くんにお願いしてスマホをちょっとだけ借りてメッセージアプリの中を確認する。


 ない、どうして。


 不審に思ってブロックリストを確認する。


 やっぱり……これは遥には言わない方がいいだろう。

 横峯くんの反応や性格からして意図的にやったこととは思えなかった私は、それをこっそり解除して横峯くんに返した。


 また話せるようになったあとに、自然と連絡先の交換ができるようにうまく二人に話しておこう。


 *****


 4月10日の木曜日。

 今日は料理研究部で新作料理を各自で好きに作ることになったが、何故かひまりが横峯くんを連れてきた。


 どうやら料理の判定をしてもらうために呼んだらしい。

 離れたところで本を読みながら、料理が出来上がるのを待っている。


「遥、横峯くんには私が持って行ってあげるから、頑張って作ってみなさいって」


「う……うん」


 料理を作って横峯くんにおいしいって言ってもらえれば、少しは遥の元気が出ると思った私はそう提案した。


 そして出来上がったものが……こ……これは。


「は……遥? こ……これって?」


「修ちゃんに食べてもらおうと思って頑張って作ったんだけど……」


 お皿の上に乗っているのは料理とは呼べない代物だった。

 遥は考えごとがピークに達すると料理スキルがどん底まで落ちる。

 今日こそは行けるんじゃないかと思ったけど、やっぱりダメだった。

 何を作ったのかは怖くて訊かないことにした。


「ど……どうする?」


「食べて欲しい……」


 どうしよう。

 本当はやめといた方がいいんじゃないか。


 でも遥がこう言ってるし、横峯くんの性格だから無理にでもおいしいって言ってくれるだろう。


 私はそれを横峯くんのところに持って行った。


「よ……横峯くーん、良かったらこれも食べてみない?」


「う……うん。いただきます」


 横峯くんがそれを口へ運ぶ。

 少し考え、言いよどむように感想を述べた。


「……う……うん……えっと……神谷さん……その……」


 ま……まさか。

 横峯くん、大丈夫よね?


「お……おいしくない……かな……ごめん……」


「えぇ〜!?」


 遥が小さく悲鳴を上げた。

 ごめん遥、私がフォローするからもう少し耐えてね。

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