第10話「隠し事?」

 4月9日の水曜日。

 女王乱入事件から翌日、体育の授業のために体育館で集まって準備運動をしていた。


 ちなみに昨日はあの後にひまりと神谷さんが凄い形相で詰め寄ってきて、何があったのか洗いざらい白状させられた。


 ひまりにはもし同じような事があったら、連絡先なんかいくらでも教えていいから自分の身を守るようにと釘をさされた。

 あと「やっぱり嘘ついていたんじゃないっ」と少し拗ねられてしまった。


 神谷さんの方は少し神妙な面持ちをしていたけど、何か気になることでもあったのかな?


 今日は新学年の最初の体育ということもあり、各自で自由に運動することとなった。


 バスケやバレーボールなど、コートを広く使う種目は第2体育館に移動することとなる。


 全体での準備運動も終わり、何やろうか考えていた時だった。


「しゅーうーくーん、あーそーぼー」


 小さな子供が友達を誘うかのように僕にニコニコと声をかけて来たのは、ひまりだった。

 特に断る理由もなく、僕もひまりともっと仲良くなりたかったからその誘いに乗った。


「いいよ。何やるの?」


「バドミントン♪」


「じゃあ準備しよっか」


「うんっ」


 用具を持ってくるためにひまりと体育倉庫に向かう。

 重い物は僕が持って行って、軽いのはひまりにお願いしよう。


 「ポールは僕が持っていくね。ひまりはラケットとシャトルとネットをお願い」


 「うんっ」


 そうして僕は横向きに立て掛けられてるポール2本を両手で抱えて持って行く。


 「わ、修くんって意外と力持ち? 2本同時って凄いねっ」


 少し驚いた表情のひまり。言ってもそんな重いかな?


 「そうかな? 僕も一応男の子だからね。これぐらい普通だよ」


 「ふふっ、そうなんだ。私は多分1本持つだけで大変かも。重い物持ってくれてありがと!」


 コートに戻って来て、差込口をひまりに開けてもらってからポールを差し込んだ。


 ひまりが持ってきたネットの両端を2人で持って広げ、ポールの溝に引っ掛けて固定フックに掛ける。


 すると何やらひまりが悪戦苦闘していた。

 どうしたんだろう?


 「ん、ん〜っ、かたいよ〜」


 ひまりの方のポールはフックがスライド式のもので、どうやらそれを固定するネジがなかなか緩まないみたいだ。

 両手で一生懸命に力を込めているのが、何だか可愛かった。


 僕はひまりの方に行って、片手でそのネジを緩めてあげる。


 「凄い! さすが男の子! ありがと!」


 普通にやったことなんだけど、褒められるとちょっと照れ臭かった。


 スライドが動くようになり、ひまりが両手でネットを張ろうとしてるけど、力が弱いのかちょっと緩いかなと思った僕は、ひまりの手を包み込むように両手で握って一緒に力を加えた。


 「これくらい張れば大丈夫だね」


 「う……うんっ!」


 ひまりが少し頬を赤らめて焦っているようだった。

 もしかして手を触ったの嫌だったかな?


 固定ネジを締め込み、サイドの紐を縛る。

 そうしてコートの準備を終えた僕達は打ち合いを始めた。


「じゃあ行くよっ」


 元気な声を発し、左手に持ったシャトルを手放して右手で持ったラケットで下から振う。


『カンッ』と軽い音が鳴り、綺麗に放物線を描いたそのシャトルは、僕のコートの上空に飛び込んだ。


 その軌道を視線で追って落下地点に先回り、右手で持ったラケットを後方に振り下げてから前方に勢いよく振う。

 先程よりも大きな音を立てて、ひまりのコートへシャトルを打ち返した。


「おっ、修くん上手いねっ」


「そうかな? ひまりもすごく上手だよ」


 そんな会話を皮切りにラリーを続けていく。


 ほれっ、それっ、とお互いに打ち交わす度に声を発して、おかしなミスをした時には軽くいじりあったり、上手い返しが出来た時には褒め合ったりとのんびりとした時間が流れる。

 ひまりとのバドミントンはとても楽しいひと時だった。


 少し疲れてきたから、体育館の隅に座り込み、ひまりと休憩する。


「久しぶりにやると疲れるね」


「そうだねっ」


 そう言葉を交わし、まだ運動している他の子達を見ながら、二人でぼーっとする。

 嫌じゃない沈黙が続いた後、ひまりが話を切り出した。


「ねぇ修くん? 修くんはいま……好きな子とかいないの?」


 体育座りでその膝に右頬を乗せて、こちらをジッと見つめながらひまりが言って来た。

 突然どうしたのかな?


「えっと、……うん、いないよ?」


「……ホントに?」


「うん……どうして?」


 ひまりはしばらく黙ったあと、少し不安な様子でこちらを見る。


「修くん、何か隠し事してない?」


「え? 隠してないよ?」


 何か気になることがあるのかな?

 ひまりがそんなことを言ってくるが、身に覚えが全くなかったから、僕は否定した。


「私お片付けしてくるねっ、修くんは休んでていいから」


 そう言って立ち上がりタタタとひまりは去って行った。


 *****


 しばらく経ったあと、汗をビッショりかいた士道くんが僕の横に座る。


「ふーあちー」


「凄い汗だね」


 手で顔を仰ぐ士道くん。

 ここでさっき言ったひまりのことと士道くんのことが重なり、僕は今までずっと疑問だったことを士道くんに訊いた。


「士道くんは、お姉ちゃんが好きなの?」


「ぅえっ!?」


 あまりにも唐突な質問に焦る士道くん。

 さらに汗が噴き出そうに見える。


「……そうだな。……でも普通の好きと違うっていうか。……なんつったら良いんだろうなぁ……」


 士道くんはどう表現したらいいのか分からず、言葉を詰まらせる。

 そこで僕は違った視点で問いかけた。


「士道くんは、お姉ちゃんとどこで会ったの?」


「職員室だよ」


「職員室?」


 そう言って士道くんはお姉ちゃんとの出会いを語った。

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