第6話「緊張の新学年」
ホワイトデーからしばらく時間が経った4月7日の月曜日、高校生の僕は2年生に進級し心機一転、新たに新学年が始まろうとしていた。
僕の通う高校は進学校で2年生からは文系と理系に分かれてクラス替えが行われる。
見慣れた校門をくぐり、これから自分のクラスを確認するために張り出された掲示板へ歩き出した。
慣れ親しんだクラスが変わり、人間関係にも変化を来たすこの時期はどうも苦手意識があり、少し緊張した面持ちで1歩1歩進みながらここ最近の違和感を振り返っていた。
あの日、僕が捨ててきたナニカを探しに出かけて帰ってきたお姉ちゃんはどこか考え込んでいたようで、どうだったか尋ねても『何も心配しなくていい』と言ったきりで、僕もそれ以上訊くことはしなかった。
ただ、あれからお姉ちゃんがいつもより優しく接してくるようになったのが気掛かりではある。
それからもう一つ。メッセージアプリにあった「かけはる」という人からの1通のメッセージについて。
内容を確認しようとした時に、またあの嫌な感情が過り僕は気付いたらユーザーブロックしてしまっていた。
ただの身に覚えがない迷惑行為だったらいいのだけれど、中を確認せずに消去してしまったため、誰か知り合いが送ってきたのではないかと考えると申し訳ない気持ちになった。
考えに
辺りでは指差して自分のクラスを確認している人、同じクラスだねと喜ぶ人や、逆に知らない人ばかりで落胆する人などで賑わいに満ちていた。
文系を選択した僕はそこから自分の名前を見つけ出したあと、クラスに仲の良い友達がいないか確認する。
「う〜ん、男子は名前は知ってるけど特別仲が良かった人はいないか。女子だと……神谷さんくらいかな?」
男子はいなかったのは残念だったけど、数少ない仲の良い女子が1人居ただけで少し気が楽になった。
その後、自分のクラスに行きドアに貼られた座席表を確認する。
席順は教室手前から五十音順になっているため、
「え〜っと、今回は一番前の席か。やった」
一番前ではあるけど窓際で左側と前の圧迫感もなく、黒板も見やすくて見晴らしのいいグラウンドも一望できるため、僕の中でとてもいい席だった。
まだ緊張の抜け切らないまま教室に入り、自分の席に向かう。やはりみんな慣れてないのもあり、クラスに誰が入って来たのかが気になるようで、数人の視線が集まるのは僕も例外ではなかった。
椅子を引いて席につき、持っていた鞄を机の右側のフックにかけた直後だった。
「おはよっ」
少し小首を傾げるようにして跳ねるような明るい声で挨拶をしてきたのは、右隣に座る見知らぬ女の子だった。
セミロングで毛先は少しだけウェーブがかった栗色の髪に、クリっとした大きな目を細めたその笑顔はとても優しいものだった。
それはどこか懐かしく、僕の緊張を解きほぐしていた。
「ありがとう」
挨拶に返したのは感謝の言葉だった。
「ふふっ、おはようにありがとうって、面白い人だね」
クスクスと笑ったその笑顔は最初のとはまた違った印象で、その彼女を見て確信した。
「だって、気を使ってすぐに挨拶してくれたんだよね? 今の表情の方が自然だったからね」
「考えすぎだよ。お隣さんに普通に挨拶しただけ」
「それでも、ありがとうだよ。4月のそわそわした空気になかなか慣れなくて緊張してたから、助かったよ」
どういたしましてと、ペコリと頭を下げてきた。
「あっ、えと……初めまして、横峯修司です。よろしく」
「初めまして、
右手を差し出して握手を求めると、自然と握り返してくれた。
最初の頃よりも自然で花が咲いたような満面の笑みを見て、挨拶をされた直後に思ったことを口にした。
「あの、花菱さんって以前どこかであったことある?」
「ふふふっ、さっき自分で初めましてって言ったばっかりなのに」
「そ……そうだよね。変なこと訊いてごめん。それと言い忘れてたことがあるんだけど……」
そう前置きすると、なんだろと興味深しめに少し身を乗り出してきた。
「おはよう」
花菱さんは遅いよとクスクス笑った。
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