第5話「探し物」※遥
今ならまだ間に合う。すぐに追いついて、違うよって、ごめんって。
遠くに修ちゃんの後姿が見えた。あともう少し……。
「あ……」
もう辺りも薄暗くなり始めた頃、修ちゃんの手から勢いよくナニカが放り投げられた。それが草むらの中に沈んでいったのが目に入った。
修ちゃんは絶対道端に物を捨てたりしない。あれは今日のために用意してくれた物だとすぐに分かった。
けど……今は修ちゃんを追いかけないと。
そう思ったとき……自然と涙が溢れながら走っていた。
あれをこのままにして修ちゃんを追いかけて、それが本当に正解なんだろうか。
きっとあのナニカは私が思っているよりも、もっと大切なものなんじゃないだろうか。
あれはきっと、修ちゃんが今日のためにお金を頑張って貯めて、用意してくれたものなんじゃないだろうか。
あれはきっと……修ちゃんの想いが詰まってるものなんじゃないだろうか。
どこ? どこ? どこにあるの?
しばらく冷静な判断が出来ない状態で、がむしゃらになり必死にその探し物をしていた。
*****
もう1時間は経っただろうか。涙はすっかり枯れ、ボヤけていた視界も少しマシになった。だけど辺りはすっかり暗くなっていて、とても灯りなしで探し物が出来る状態じゃなかった。
灯りになるスマホは置いてきた鞄の中。一度戻ってからまた……と思って立ち上がったとき、後ろから光が照らされて眩しくなった。
「誰かしら?」
聞き覚えのある美しい声が私の中に響いた。
「あ……あいか……ちゃん?」
「あら? 遥じゃない」
私が眩しくないようにライトを少し下げ、その声の主は私の名前を呼んだ。
私は「どうして?」と言おうとした言葉を飲み込んだ。訊く前に理解してしまったから。
沈黙したまま俯いていると、愛香ちゃんが言葉を続けた。
「探し物は見つかった?」
私は黙ったまま首を横に振った。
こんな暗いなか、灯りもなしにがむしゃらに探したって見つかるものも見つからない。
「そう、じゃあこれ。私はここら辺を探すから、あなたはそっちら辺を探してくれるかしら」
そう言ってもう1本持っていたライトを私に手渡し、ライトの光で探す位置を的確に指示してくれた。
さっきまで私の目の前は真っ暗で、なにも見えなくて、自分の意思がどこにあるのかさえ分からない状態だった。だけどその手渡された1本のライトを点けた時、不安だった気持ちが少し和らいだ気がした。
それからまた探し出して少し経った時……。
「あ……!?」
暗い草むらに光が照らされたその先に見えた、薄汚れ少し破けていて、可愛くラッピングされたそれは、とてもとても、光輝いているように見えた。
「愛香ちゃん! あったよ! ……あったよ!」
感情が高まり大声で叫んでいた。
近寄ってきた愛香ちゃんに見つかったそれを手渡したとき、どこか悲しそうな顔に見えたのは暗がりのせいだろうか。
「それにしても久しぶりね、遥。最近あまりうちに遊びに来ないようだけど」
「……うん」
昔は修ちゃんの家によく遊びに行っていたけど、ある理由で行かなくなり、愛香ちゃんとは学校で見かけるくらいの関係になっていた。
「もう暗いし、早く帰りましょう」
「修ちゃん……何か言ってた?」
恐る恐る、その暗くてあまり見えない表情の愛香ちゃんに私は尋ねた。
愛香ちゃんはもしかしたら怒ってるのかな? と不安にもなったから。
「そうね。あえて言うなら何も言わなかった。言わなかったことが問題というべきかしらね」
「え?」
言葉の意味がよく分からず疑問に思っていると、愛香ちゃんは手に持っているそれをジッと見つめた。そこからなにか決意した声音で言った。
「何があったかは、今は私の方からは訊かないことにするわ。訊いたらこっちの事情も話さなければならないからね」
そしてこう続けた。
「遥にお願いがあるの……これから1ヶ月、修との接触は一切しないでもらえるかしら」
「ど……どうして? 愛香ちゃん……怒ってる? そ……そうだよね……私があんなことしたから……ごめんなさい……ごめ……なさい……」
修ちゃんに1ヶ月も会うなということは、そういうことなんだろう。きっとあの暗くて見えない表情は、怒っているんだろうと私は思い、震える声で俯いていた。
すると愛香ちゃんは両腕で私をギュッと抱き締めてきた。とても優しい香りがした。
「落ち着きなさい……そうじゃないの。怒ってなんかないわ。あなたは悪意があってそんなことする子じゃないって、分かってるから」
さっきまで抑えていた涙の蓋は剥がれ落ち、止め処なく溢れ出していた。
私と同じ大好きな人を一番理解している愛香ちゃんが
少し落ち着いて愛香ちゃんから離れたところで話の続きに入った。
「今は詳しいことは言えないの。そのときが来たらちゃんと話すから。だからそれまでは……」
愛香ちゃんがそれを私にそっと渡してきた。
「それまでは、それはあなたが持っていなさい」
「うんっ……ぅん」
私はそれを両手で握りしめ、胸の前で抱きしめた。
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