第4話「失敗」※遥
『
『分かった』
そんな無愛想な文字と部活が終わってから行ける時間を業務連絡のように返信して、スマホのメッセージアプリを閉じた。
「美里ちゃ〜ん、どうしよ〜! 緊張で私死んじゃうかも〜」
修ちゃんからメッセージが来たのは、お昼ご飯が始まってすぐのこと。まだ約束の時間まで何時間もあるのに、すでにドキドキが止まらない。
「出た、へっぽこ遥! これが世の男どもを薙ぎ払った美少女の本性とはの〜」
右手で顎髭を撫でるような仕草をする。
いつもの美里ちゃんのからかいが始まった。
「美里ちゃん! おじさんみたいなからかいやめて! あと薙ぎ払うってなに!?」
美里ちゃんの弄りは時々キャラ変したりする。それに
「そのままの意味よそのままの。まー遥には
これ以上弄れたくないと思い睨みをやめる。ニヤニヤをやめて美里ちゃんが少し声のトーンを落とした。
「それで? 今日、言うんでしょ?」
「……ぅん」
またそのことを言われて恥ずかしくなってしまい、箸で掴んでいたご飯をポロポロこぼしながら口に運ぶ。
1ヶ月前、バレンタインデーのチョコを作ったあの日。今日のホワイトデーに告白すると決意したあの日。心の準備を整えてきたつもりだったけど、もし断られでもしたら……。
「も〜そんな顔しない遥、ど〜んと行って来なさいよ!」
不安げな私を勇気付けるように、美里ちゃんが励ましてくれた。何だか少し勇気が出た気がする。
*****
お昼が終わり、午後の授業はもう何をしたか記憶にない。料理研究部で私が作ったものは、料理とは呼べない代物が出来上がっていた。
そんなこんながあって待ち合わせの5分前、土手を下った橋の下。すぐに目に飛び込んできたのは修ちゃんの姿だった。
すぐに会いに行きたかったけど、部活もあるし、心の準備の延長もしたかったし。ちょっと待たせてしまったかもという申し訳ない気持ちのまま、修ちゃんと対面した。
「何? 横峯……話って……」
今日はホワイトデー。いつも修ちゃんがお返しをくれる日。話す内容なんてもう分かりきってるのに、そんなことを訊いてしまう。
それに前に美里ちゃんに言われた呼び方も、まだ直せていない。
「えーっと、その……お返しの日だから……」
やっぱり、修ちゃんはお返しをくれるんだ。わざわざこんな遅くまで待っててくれるし、やっぱり優しいなぁ……。
「そ……」
緊張で目線を逸らしてしまう。もうドキドキも最高潮。
どうしようどうしようどうしよう。
なんか、緊張を誤魔化せるようにいつものキャラで行けば大丈夫だよね。きっと。
そんなこと考えてるうちに何か修ちゃんが言ったような気がするけど、もはや耳に入って来ない。
「て……っていうか何? バレンタインのお返しとか、べ……別に要らないんだけど? あれは友達の付き添いで一緒に作っただけで、渡すのは”男だったら誰でもよかっただけ“なんだからね!!」
……ん?
私いま何て言った? そんなはずないよね?
私ちゃんと“横峯だけ”って言ったよね?
……あれ? もしかして……
「そっか……そうだったんだ……ごめんね。こんなところにわざわざ呼び出して……チョコありがとう。改めてお礼の言葉が言いたかっただけなんだ」
さっきまで感じていた緊張は全く別のものに変わり、顔がみるみる青ざめてく。は……早く訂正しないと!
「え……!?」
私が絶対に見たくないものが目に飛び込んできた。
修ちゃんの悲しい泣き顔。
今まで一度も見たことがなかった。いつも笑顔で私に微笑みかけてくれる大好きな表情は、今は見る影もなかった。
私は何てことをしてしまったんだろう。もう返す言葉が見つからなかった。
「……ごめん、何でもないよ。今日は来てくれてありがとう。それじゃ……帰るね!」
修ちゃんはその場から立ち去ってしまった。
早く追いかけないと、早く……じゃないと修ちゃんが……修ちゃんが……。
言葉だけじゃなくていつも物でお返しをくれていた。後ろ手に何か隠してるのは知っていたから、プレゼントを用意してくれたのも気付いてたけど、渡してくれなかった。
あの見たこともさせたくなかった顔も私がさせてしまった罪悪感。嫌われたかもしれないという恐怖心で、私はしばらくその場を動くことが出来なかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます