第3話「あれ」※遥

 私にはいま、好きな人がいる。

 ううん、いまというよりもずっと。


 横峯修司よこみねしゅうじくん、私の……大好きな人。


 幼稚園からずっと一緒でいつも側にいてくれた。私があんなことしちゃうようになってからも、ずっと……。


 今までいろんな人に告白されてきた。告白してきた人には本当に申し訳ないけど、顔も思い出せないほど、数えきれないほど、たくさん……。


 でも私は誰にも首を縦に振らなかった。だって、私にはしゅうちゃんがいるんだもん。他の人がカッコいいとかすごいとか、私にはどうでもよかった。


 可愛いとかスタイルが良いとか頭がいいとか、私のことをいろいろ褒めてくれる男の子や女の子がいるけど、それもどうだっていい。


 誰に認められなくても、修ちゃんさえいてくれれば。でも、私が今の私じゃなかったら……修ちゃんは私の側に居てくれたのかな?


 ******


 1ヶ月前──2月13日バレンタインデーの前日、小学校から親友の神谷美里かみやみさとちゃんと一緒にチョコを作っていた。


 もちろん、あげる相手は修ちゃんだ。


「でー、はるか〜急にガチチョコ作りたいなんて言うから付き合ってるけどさー……もしかして告白でもするの?」


 からかうようにニヤニヤしながら言ってくる美里ちゃん。いつものいじりが始まった。


「……っんもう! あんまりからかわないでよ美里ちゃん!」


 恥ずかしさのあまり、俯いてまだ形を成してないドロドロのチョコを見つめる。


「いい加減告白したら〜って思うんだけどさー、その前に”あれ“とか“あれ”、直した方がいいよ?」


 “あれ”と言われて他の人には何のことかと思うかもしれないけど、私には心あたりがある。


「……うん、分かってる。でも……分かってるんだけど直せないんだよ。修ちゃんに嫌われたらって考えると……」


 もし修ちゃんに嫌われたら、私はどうなっちゃうんだろう。


「う〜ん、そもそも“あれ”ってホントなの? 絶対に遥の勘違いだと思うんだけど……」


 顎に手を当て、目線を上に向けて考える素振りをする美里ちゃん。


「間違いないよ! だって修ちゃん言ってたもん!」


 少しむきになって声を荒げてしまった。だけど、親友だからこの程度じゃ何も問題にはならない。


「ホントにー? まーでも……年がら年中修ちゃん修ちゃん、寝ても覚めても修ちゃん修ちゃん言ってる遥が聞き間違えるはずもないっか」


 さっきより更にニヤニヤしてる。ホントやだ。


「そんなこと! ……あるかも」


 聞き間違いは絶対ないけど、前半に言われたことは改めて言われるとそんなことあった。考えるまでもなくその通りだったから。何だか急に恥ずかしくなってきた。


「でも“あれ”は置いといてもさ〜あ? 呼び方戻した方が良くない? 何で私の前では修ちゃんなのに、彼の前では横峯よこみねなのよ」


「……だって、キャラじゃないし?」


「はぁ〜ダメだこりゃ、横峯くんかわいそー、嫌われちゃっても知らないよ?」


「修ちゃんはそんなことで嫌ったり何かしないもん!」


 少しいじけた態度をとってしまった。


「はいはい、よしよし。私の前ではこんな素直で可愛いのにねー。それで? 告白するの?」


 美里ちゃんは私の頭を撫でて来ながら、改まって最初の本題に戻った。


「ううん、明日はやめておく。だって心の準備がいるし……だから……その……修ちゃんのことだから絶対ホワイトデーにお返しくれるでしょ? その時に……だ……大好きっていうの」


 美里ちゃんに告白のことを言われ、改めてそれを決心した。


 修ちゃんと恋人になる。


 そのことを少し考えただけでもドキドキして、顔が茹で上がるように真っ赤になった。


「そっか、ま、とりあえずはそのドロドロになったチョコをハートマークにして、修ちゃん大好きLOVEを描くまで仕上げましょっか」


「〜〜っんもう!」


 私は美里ちゃんの肩をポカポカ叩いて恥ずかしさを誤魔化した。

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