第298話 そこまでですわ!

 ヴァンナドゥルガ最奥部、ガレウス邪教団の本拠地は大混乱に陥っていた。

 アンナマリアとガレウスの衝突、その余波が直撃したのである。中央の円形舞台は半壊、周囲に聳えていた祭壇は跡形も残っていない。

 もはやガレウス邪教団の本拠地は崩壊寸前だ、さらに──。


「頼んだわよヴィエーラ!」


「お任せください!」


 ヴィクトリア女王、ナターシャ、ヴィエーラが、ヨグソードを奪還するべく攻め入ったのである。

 ヴィエーラは先陣を切り、鋭い徒手空拳で次々と魔物を制圧。武器と鎧を奪われたままだが、全く問題にしていない。


「さあ、いきましょうヴィクトリア様!」


「ええ、いくわよナターシャちゃん!」


 続くナターシャはヴィクトリア女王を守りつつ、落ちている瓦礫を敵に向かってポイポイ。さらにはヴィクトリア女王まで、落ちている瓦礫を敵に向かってポイポイ。二人で瓦礫をポイポイすることで、先行するヴィエーラを援護しているのだ。


「ヨグソードは……ありました、ヴィエーラさんの正面です!」


「いけます、このまま回収して──」


「そうはさせません」


「──っ!?」


 ヨグソード奪還の間近、惜しくもヴィエーラの前に聖騎士ラックが立ち塞がる。

 ラックは右手に剣、左手に盾を構え万全の迎撃態勢である。対するヴィエーラは完全な無防備、というか下着しか身につけていない。

 いくらなんでも真っ向勝負は無謀であろう、にもかかわらずヴィエーラは些かも怯まない。


「おのれラック、よくもヴィクトリア様を裏切ったな!」


「お元気そうで何より、それにしても品のない格好ですね」


「黙れ裏切り者、今すぐ蹴り潰してやる!」


「待ってヴィエーラ、これは……マズいわ!」


「「「「「クフフフッ……」」」」」


 ロムルス王国の兵士、アルキア王国の兵士、さらにはアルキア王国の国王まで。どこに潜んでいたのやら、気づけば三人を取り囲んでいるではないか。


「……なるほど、さては他者を操る魔人の仕業ね」


「「「「「ほほう、私のことを知っていましたか」」」」」」


「ゼノンから聞いたわ、確か……ララッスルだったかしら?」


「「「「「失礼な……私の名はラドックス、土の魔人ラドックスですよ」」」」」


「やっぱり、ということはラックも操られているのね?」


「「「「「その通り、彼らは私の支配下にあるのです。さてお嬢さん方、牢へ戻ってもらいましょうか」」」」」


「あら、私達を殺そうとしないのね」


「「「「「美しい女性は大好物です、後ほど私の精神侵食で念入りに……クフフフッ」」」」」


 多勢に無勢、完全に逃げ道を塞がれ万事休す。だがヴィクトリア女王は冷汗一つかかず、キッとラドックスを睨みつける。


「本気で私を操れる思っているのかしら?」


「「「「「どういう意味で?」」」」」


「私はヴィクトリア・メリル・アン・ロムルス、ロムルス王国の女王よ! 卑しい魔法に屈するような、しおらしい女ではないわ!」


 窮地に追い込まれていようとも、ヴィクトリア女王は決して心折れない。魔人を相手に恐れず、怯まず、退かず、グイっと胸を張って堂々と対峙する。


「わああっ、ダメですよヴィクトリア様!」


「いけません、とにかく前だけでも隠して!」


「別に見られたって構わないわよ」


「「構います!」」


 胸を張るのは結構なことだが、ヴィエーラと同じくヴィクトリア女王も下着姿なのだ。

 ナターシャとヴィエーラは大慌て、ヴィクトリア女王の刺激的な部分を隠すのに必死で、ラドックスのことは完全に放置である。


「「「「「クフフフッ、まったく呑気なものですね……」」」」」


 ぞんざいな扱われ方に気を悪くしたのか、ラドックスは一気に包囲網を狭める。同時に汚泥のような魔力を解放し、ズブズブと三人を包み込む。


「「「「「予定変更です、今すぐ精神侵食を……」」」」」


「そこまでですわ!」


 精神侵食が作用する間際、どこからともなく響き渡る。ウルリカ様の「そこまでじゃ!」を思わせる、絶望を掻き消す希望の声が──。

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