第299話 形勢逆転
「そこまでですわ!」
どこからともなく響き渡る、絶望を掻き消す希望の声。ウルリカ様の「そこまでじゃ!」を思わせる言い回しだが、声と口調は紛れもなくシャルロットのもの。
「助けにきましたわよ!」
崩れた祭壇の頂で、シャルロットはビカビカと発光していた。差し込む後光、頭上の光輪、煌めく翼、その姿はまるで──。
「「「「「クフフッ……音に聞く太陽の天使か、あるいは勝利の女神でしょうか?」」」」」
そう、まるで天使や女神のよう。むやみにビカビカと発光し、やたらと目立って注目を集める。自ずとラドックスから狙われてしまうが、それこそシャルロットの狙いだ。
「よし、一気に制圧するぞ!」
「ナターシャ嬢を返してもらう、筋力増強魔法!」
「「「「「なんだと!?」」」」」
シャルロットが注目を集めている間に、シャルルとゴーヴァンが回り込んでいたのである。
シャルルは先陣を切ってラドックスの包囲網に突撃、アルキアの国王相手でもお構いなしに、強烈な体当たりで吹き飛ばす。
「ぬうんっ、炸裂せよ大胸筋!」
「「「「「ぐはあああっ!?」」」」」
「奮い立て僧帽筋!」
「「「「ぐひいいいっ!?」」」」
「唸れ上腕二頭筋!」
「「「ぐふうううっ!?」」」
「燃えあがれ広背筋!」
「「ぐへえええっ!?」」
「弾けろ大腿四頭筋!」
「ぐほおおおっ!?」
シャルルの進撃は止まらず、瞬く間にラドックスの包囲網は崩壊寸前だ。
一方のゴーヴァンは、残っていた魔物をすっかり片づけていた。かつ卓越した立ち回りで、シャルロットの護衛も欠かさない。
「上手くいきそうですわ、流石ヘンリーの立てた作戦ですわね……ところでヘンリー?」
シャルルとゴーヴァンの戦いを眺めながら、シャルロットはチラリと振り返る。ヘンリーに話しかけているようだが、暗がりに紛れて姿は見えない。
「……はい、どうしました?」
「この演出は少し派手すぎると思いますの、天使に女神って……」
「シャルロット様の役目は陽動です、これ見よがしに目立ってこそです」
「それはまあ、分かってますわよ……」
「というわけで光魔法の出力を最大にします、もっと派手に目立ってください」
「そんなに目立ちたくありませんわよ!」
後光や光輪、煌めく翼はヘンリーの光魔法による演出。シャルロットの派手な登場、続くシャルルとゴーヴァンの強襲はヘンリーの立てた作戦。
ヘンリーは知恵と工夫で数的不利を覆し、見事ラドックスを大混乱へと陥れたのだ。
「今です、ヨグソードを取り返します!」
「待ってナターシャちゃん、危険すぎるわ」
「大丈夫です、必ずヨグソードを──」
「クフフッ、ヨグソードは渡しませんよ」
「──っ!?」
混乱するラドックスの隙を突いて、ナターシャはスルスルと包囲網を突破。ヨグソードに手を伸ばすも、一歩及ばずラックに阻まれてしまう。
「さあお嬢さん、大人しく──」
「くたばれラック!」
「──ふごおっ!?」
「えっ、ヴィエーラさん!?」
ナターシャの行く手を阻んだ直後、ラックは奇声をあげてパッタリ。
何事かと思いきや、ヴィエーラが背後から股間をズドンッと蹴りあげたのだ。ラックに限らず全男性とって、身震いするほど悍ましい一撃である。
「あの、ヴィエーラさん? この方は敵に操られていたのでは?」
「操られていたとはいえ、ヴィクトリア様を陥れた罪は許せません!」
「おっ……おごっ……、おげっ……」
ラドックスに操られている、かといってヴィエーラは容赦しない。悶絶するラックを何度もゲシゲシッ、主に股間を何度もゲシゲシッ。
ともかくヨグソードは取り返し、ラドックスの包囲網は完全に壊滅。一時は万事休すかと思われたが、どうにか危機は脱したよう。
「シャルロット様! シャルルさんとヘンリーさんも、助けにきてくれたのですね!」
「どうして子供達が? それにゴーヴァンまで、一体どういうことなの?」
「お母様達を助けにきましたのよ、でもその……なんだか迷って、通路が崩れて、崩れた先でお母様達を見つけて、ヘンリーに作戦を立ててもらって……」
「お待ちください、経緯を話すと長くなってしまうかと。ですのでヴィクトリア様、まずは脱出いたしましょう」
「でもゴーヴァン……そうね、分かったわ」
「グルオオオオッ!」
いざ脱出と思った矢先、突如として上空から響き渡る咆哮。見あげると真紅の巨体、その正体は──。
「「「「アグニス!?」」」」
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