第243話 問い

「そこまでにするのじゃ」


 影を引き裂き現れる、友達思いの頼れる魔王様。大剣を前にしても物怖じせず、リィアンとガーランドの間に割って入る。

 突然の出来事にリィアンは唖然、ガーランドも困惑を隠せない。


「なんだ、一体どこから現れた?」


「これお主……」


「……っ!?」


「リィアンは妾の友達じゃ、分かったら剣を下げるのじゃ」


 ウルリカ様の放つ殺気は、百戦錬磨のガーランドですらゾッと寒気を覚えるほど。有無を言わせぬ迫力に気圧され、ガーランドは渋々と大剣を下げる。しかし決して退くことはない、ウルリカ様を相手に大したものである。


「今そいつを友達と呼んだか?」


「うむ、リィアンは妾の友達なのじゃ」


「そいつはガレウス邪教団の魔人だ、それを知っても友達と呼ぶつもりか?」


「もちろんなのじゃ!」


 ウルリカ様は迷うことなく、大きな声で友達であることを宣言。予想外にハッキリと宣言され、ガーランドは思わず閉口する。

 シンと流れる沈黙の間、シャルロットはリィアンとの出会いを思い出していた。


「そういえば、リィアンを連れてきたのはウルリカでしたわよね……」


「もしかしてウルリカ様、最初からリィアン様を魔人だと知っていたのですか?」


「知っておったのじゃ」


「ではどうして、魔人であるリィアンさんを連れてきたのですか?」


「最初に説明したはずじゃ、たくさんお菓子をくれて気に入ったからじゃ!」


 ウルリカ様らしい自由さに、オリヴィアは思わず頭を抱えてしまう。シャルロットとナターシャは、やれやれと天を仰いで溜息。

 一方でガーランドは、危機感のないウルリカ様に激しい怒りを覚えていた。


「ふざけるな、言語道断だ!」


「なぜじゃ?」


「そいつはガレウス邪教団の魔人だ、どう考えても危険だろう!」


 ウルリカ様は「ふーむ」と考え、自らを指差しガーランドに問う。


「妾は魔界の王であり、吸血鬼の真祖なのじゃ。さて、妾とリィアンどちらが危険かの?」


「えっ、ウルリカって吸血鬼だったの!? しかも魔界の王って……本当に?」


「おっと、リィアンには伝え忘れておったの」


 実のところリィアンは、ウルリカ様の正体をハッキリと認識していなかった。ただ漠然と畏怖の念を抱いていただけ。それにしてもウルリカ様、色々と説明をしてなさすぎである。


「いやしかし、やはりその魔人は危険だ! なぜなら以前、魔物を操り王都ロームルスを襲撃したのだ。その魔人の凶行を俺は見た、その魔人は人類の敵だ!」


「先ほどリィアンは身を挺して人間を守ったのじゃ、お主も見ておったはずじゃ。さてリィアンは人類の敵かの? それとも味方かの?」


「く……っ」 


 ガーランドが言葉を詰まらせた隙を見計らい、シャルロットは話に割り込む。


「ねえリィアン、どうしてワタクシ達を守ってくれましたの?」


「……」


「お願いリィアン、答えてくださいですの!」


「……そんなのリィにも分かんない、ただリィは学園と皆のことが好きで……。後夜祭を楽しんでる皆の顔を思い浮かべたら、勝手に体が動いてた……」


「やはりリィアンは悪い子ではありませんわ、人類の敵でもありませんのよ!」


 理由はなんとも単純明快、リィアンは好きなものを守ろうとしただけ。リィアンの素直な思いを聞けてシャルロットは嬉しそう、だが──。


「だからといってシャルロット、その子を許すわけにはいかないわよ」


「そんなっ、お母様!」


「その子は人間を傷つけたこともある、であれば看過は出来ないわ」


「お母様の……言う通り……、私達は……国民の安全を……守らなければならない……。それに……罪は償わなければならない……そういう決まり……」


 国と国民を背負う立場上、リィアンを見逃すわけにはいかない。ヴィクトリア女王とクリスティーナに諭され、シャルロットは口を噤んでしまう。


「その子は人間を傷つけた、裁かれる決まりなの。ウルリカちゃんも理解してね?」


 ウルリカ様は「ふーむ」と考え、自らを指差しヴィクトリア女王に問う。


「ならばヴィクトリアよ、妾のことも裁くかの?」


「ウルリカちゃんを?」


「かつて妾は人間と邪神の軍隊を滅ぼしたのじゃ、たくさんの人間を傷つけたのじゃ。さてヴィクトリアよ、妾のことも裁くかの?」


「それは……」


 ウルリカ様は一貫して問う、そして相手を揺るがせる。一方でウルリカ様自身は微塵も揺るがない、つまりは誰もウルリカ様を退けることは出来ない。


「まあゆっくり考えるといいのじゃ」


 ウルリカ様はシャルロットに、そしてオリヴィアとナターシャに問いかける。


「さて、お主達はどう思うのじゃ? どうするのじゃ?」


 重く長い沈黙の後、シャルロットは立ちあがり──。

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