第211話 月夜に笑う者

 月明りの差す回廊を、静かに歩く細身の人影。


「おのれ……っ」


 体格や声質から察するに中年の男性であろうか、逆光に阻まれ顔を確認することは出来ない。


「計画を台無しにしただけではなく、私の精神侵食を貧弱な魔法などと……許せませんね」


 精神侵食は魔人ラドックスの用いる魔法である、すなわち人影は魔人ラドックスにより精神を支配された何者かなのであろう。


「それにしても評判に違わぬ怪物でした、私の魔法を悉く退けるとは……」


 ラドックスはブツブツと独り言を漏らしながら回廊を歩き続ける。


「しかし怪物的な力をもってしても、私を完全に消滅させることは出来ませんでしたね。クククッ……そもそも全ての私を消滅させることなど不可能なのです。やはり私の精神侵食は無敵の力、決して貧弱な魔法ではありません」


 静まり返った回廊に、ラドックスの笑い声が響き渡る。


「南ディナール王国とロムルス王国の同盟締結は防げませんでしたが、大した問題ではありません。策も手駒も無数に用意してありますからね、クククッ……」


 ラドックスは回廊の突き当りへと差しかかる。突き当りを境に月明りは途切れ、回廊の先には暗闇が幕を下ろしている。


「全ては邪神ガレウス様復活のために……!」


 月夜に笑うラドックスは、ロームルス城の回廊を抜け暗闇の奥へと姿を消すのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る