第212話 お休みの過ごし方

 入学式から早半年、夏も終わりに差しかかるころ。今日も今日とてウルリカ様は学校での楽しい日々を過ごしていた。


「ではここまで、今日の授業はお終いよ!」


「はーいなのじゃ、ありがとうなのじゃ!」


 教室塔二階の大教室に響く、元気いっぱいなウルリカ様の挨拶。クラスメイト達も挨拶をしてこの日の授業は終了だ。


「今週の授業はお終いじゃな、どの授業も最高に楽しかったのじゃ!」


 一週間の授業を思い出し笑顔を溢れさせるウルリカ様、心の底から学校と授業が大好きなのだろう。


「あっ、そういえば一つお知らせよ」


「ふむ? お知らせとはなんじゃ?」


「来週からロームルス学園は長期のお休みに入るのよ」


「嫌じゃーっ!」


 お休みのお知らせを聞いた瞬間、バターンと引っくり返り駄々をこねるウルリカ様。学校大好きなウルリカ様にとって、お休みのお知らせは悲報以外の何ものでもない。


「毎日学校でよいではないか!」


「それは違うわウルリカちゃん、お休みはとても大切なのよ」


「なんでじゃ!?」


「お休みを利用して実家へ帰り家族と過ごす時間、あるいはお勉強以外の好きなことに励む時間。そういった時間も学生にとっては必要なの、だからしばらく授業は我慢してね」


「むうぅ、分かったのじゃ……」


「ありがとうウルリカちゃん、お休みが終わったら最高の授業をするからね」


 ヴィクトリア女王に優しく諭され、渋々ながらも納得するウルリカ様。一方クラスメイト達はお休みの過ごし方についてワイワイと盛りあがっていた。


「皆さんはお休み中、何か予定はありますか?」


「自分はアンナマリア様に同行し、アルテミア聖教国を巡礼させてもらおうと思う!」


「確かアンナマリア様はシャルルさんのお家に居られるのでしたね、アンナマリア様のお相手には慣れました?」


「いやまったく、自分や父はアンナマリア様を前にするだけで緊張のあまり震える始末だ。しかし母は慣れた様子だな、昨夜はアンナマリア様と二人で風呂に入っていた」


 ロムルス王国に滞在している間、シャルルの家に居候しているアンナマリア。どうやらシャルルの母親とはすっかり打ち解けているらしい。


「ベッポ様はどのように過ごされるのですか?」


「俺は実家の手伝いだろうな、新しい支店を出すことになって忙しいんだ」


 ベッポの実家である商会は支店を出すほど繁盛している様子、相変わらず臭い商品を売っているのだろうか。


「ナターシャとオリヴィアは? 何か予定はありますの?」


「私は特に予定なしです」


「私も予定はありません、ウルリカ様と一緒にいます」


「ワタクシも同じくですわ、なんだかワタクシ達って寂しいですわね……」


 何も予定はないというオリヴィア、シャルロット、ナターシャの三人。なんとも微妙な空気を変えるべく、ヘンリーは無理矢理話に割って入る。


「えっと……ボクは実家に帰ろうと思っていますよ、一時帰省ですね!」


「家族と過ごすのですわね、ステキですわ」


 休みを利用して実家へ帰る、ありふれたヘンリーの予定にウルリカ様はピクリと反応する。


「ふむ、ならば妾も帰省してみようかの?」


「ウルリカ様も帰省ですか……帰省?」


「魔界に帰省なのじゃ、久しぶりに配下の皆と過ごしたいのじゃ!」


「「「「「「えぇーっ!?」」」」」」


 魔界へ帰省するというウルリカ様の唐突な発言、どうやら何事もないお休みとはいかなさそうである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る