第163話 超本格舞台劇! 勇者と魔王、伝説の戦い!
鳴り響く音と色鮮やかな光の中、舞台上に二つの小さな影が姿を現す。同時に語り手であるシャルロットの声が舞台袖から響き渡る。
「それではこれより“超本格舞台劇! 勇者と魔王、伝説の戦い!”をお届けします」
さあいよいよ、ウルリカ様達による舞台劇の開演である──。
✡ ✡ ✡ ✡ ✡ ✡
──昔々のその昔、世界は平和に包まれていました。
争いごとはなく、大人も子供も毎日のようにお腹いっぱいお菓子を食べていました。世界はおいしいお菓子に溢れ、人々は甘々で幸せな生活を送っていたのです。
そんなある日のこと、突如として世界中からお菓子が消え去ってしまいました。大好きなお菓子を失ってしまい悲しむ人々、そんな人々の前に恐ろしい存在が姿を現したのです。
「はっはっはー! 妾は大魔王ウルリカなのじゃ、世界中のお菓子は妾のものなのじゃー!」
なんということでしょう! 世にも恐ろしい大魔王ウルリカが現れたのです!
大魔王ウルリカは圧倒的な力で世界を支配してしまいました、世界中のお菓子を一人占めしてしまったのです。
そんなある日、悲しみに暮れる人々の前に一人の救世主が現れました。
「私は勇者アンナっす! 大魔王ウルリカを倒し、奪われたお菓子を取り戻すっす!」
彼女の名前は勇者アンナ、お腹を空かせた人々のために剣をとり立ちあがってくれた勇者です!
大魔王ウルリカを倒すため、勇者アンナは過酷な冒険の旅に出ます。いくつもの困難を経て、勇者アンナは大魔王ウルリカにも負けない強い力を身につけました。
そしていよいよ勇者アンナは、大魔王ウルリカの元へと辿り着きます!
「大魔王ウルリカ! みんなのお菓子を返してもらうっすよ!」
「嫌なのじゃ! この世のお菓子は全て妾のものなのじゃ!」
睨みあう勇者と魔王、こうして世界中のお菓子をかけた運命の戦いが幕を開けるのです──。
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──舞台上では魔剣ヴァニラクロスを構えたウルリカ様と、時空剣ヨグソードを構えたアンナマリアが睨みあっている。
見事な演出と独創的な世界観、そして可愛らしい二人の演技に観客は大盛りあがりだ。
「二人とも凄く可愛いわ! あの衣装もステキね!」
「素晴らしい演出でした、シャルロット様の語り手も板についていますね」
ヴィクトリア女王とルードルフは関心しながら舞台上を眺めている。しかし隣で観劇しているゼノン王の顔色は青い。
「これは演劇だろう、正真正銘の勇者と魔王を出してどうする」
「あら、可愛らしくていいじゃない?」
「そうか……そういうものか?」
唸りながら頭を抱えてしまうゼノン王。
一方舞台上では、ウルリカ様とアンナマリアによる大立ち回りが繰り広げられていた。二人は剣を振るう度に微細な魔法を操り、輝く剣線や飛び散る火花を演出している。
その様子を見たクリスティーナとエリザベスは二人そろって顔面真っ青だ。
「魔法とは……あれほどまでに精密に……操れるものなの……?」
「信じられない、なんという洗礼された剣術なのだ……」
本物の勇者と魔王による超本格な戦闘は、本格的すぎて一部の人間を畏怖させてしまっているようである。しかしそれは一部の人間に限った話だ、白熱する戦闘に一般の観客は大盛りあがりである。
そんな中、観客席の最前列では一際興奮した観客が舞台に食らいついていた。
「うおぉー! 頑張れ愛しき少女よー!」
気でも触れたかのように愛を叫ぶアルフレッド、そしてもう一人。
「ふおぉー! 頑張ってくだされウルリカ様!」
どこからともなく現れたノイマン学長である。孫であるハインリヒの歌劇には顔を出さなかったくせに、ウルリカ様の舞台では最前列を陣取っている。
なんとも孫に薄情なおじいちゃんである。
「むうぅ、なかなかやるのじゃ!」
「そっちこそ、なかなかやるっすね!」
「しかし妾は負けぬのじゃ!」
「私だって負けないっす!」
盛りあがりを増す特設舞台、にもかかわらず一組の男女が静かにその場を離れていく。
聖職者を思わせる黒い衣装に身を包んだ二人は、誰の注意を引くこともなく静かに木立の影へと姿を消すのだった。
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