第164話 万死に値する!
舞台劇が山場をむかえていたころ、ロームルス学園に隣接するパラテノ森林を一組の男女が歩いていた。
「ねえどうするのよ! あれじゃヨグソードを奪えないわよ!」
「落ちつけザナロワ、そう興奮するな」
「はぁ? どうしてアブドゥーラはそんなに冷静でいられるわけ!?」
時空剣ヨグソードを狙い王都へと侵入していたガレウス邪教団の幹部、アブドゥーラとザナロワである。二人は忌々しそうに表情を歪めながら森の奥へと足を進めていく。
「あの二人は一体なんなのよ、どっちも化け物じゃない!」
「ヨグソードを手にしていた少女はアルテミア正教会の教主だ。あの凄まじい身のこなし、まるで本物の勇者アルテミアだった……」
「それより相手役だった女の子よ! 剣術も魔法も尋常じゃなかったわ、なにより持っていた剣がヤバすぎるわよ!」
上位魔人である二人は、一瞬にしてウルリカ様とアンナマリアの実力を察知したようだ。
「私達だけじゃ勝てないわ、ラドックスとリィアンも呼びましょう」
「しかし四人がかりでも手に負えるかどうか……いや待てよ」
不意にアブドゥーラは立ち止まると、ロームルス学園の方へと振り返る。
「なにもあの二人を倒す必要はない」
「はあ? なに言ってるの?」
「俺達の目的はヨグソードの奪取だろう? あの二人を倒さずとも、ヨグソードさえ奪ってしまえばよい」
「あんな化け物共からどうやって奪うのよ……」
「混乱に乗じてヨグソードを奪取すればよいのだ」
そう言うとアブドゥーラは足元に巨大な魔法陣を展開する。怪しく輝く魔法陣からは、霧のような魔力が溢れ出してくる。
「魔物を召喚しロームルス学園へと放つ、そうすればロームルス学園は混乱に陥るだろう。その混乱に乗じて俺達はヨグソードを奪取する、そして速やかに撤退するのだ」
魔法陣は輝きを増し、溢れ出る魔力は渦を巻く。いよいよ魔物が召喚されようとしたその時──。
「邪教の者よ、そこまでにしてもらおうか」
「……貴様は第一王子か」
木立の影から姿を現したのは第一王子アルフレッドである。
驚くアブドゥーラとザナロワ、しかし二人の前に現れたのはアルフレッドだけではない。
「ほっほっほっ、ようやく追いつきましたな」
アルフレッドの背後からノイマン学長まで姿を現したのだ。アルフレッドは腰元の剣に手をかけ、ノイマン学長は黄金の杖を構え、アブドゥーラとザナロワの前に立ち塞がる。
「第一王子に賢者ノイマンまで、一体どうなってるのよ!?」
「愛しき少女の舞台中にもかかわらず途中で立ち去る不届き者がいたのでね、不審に思って跡をつけてきただけだよ」
「俺達は認識阻害の魔法で守られている、跡をつけることなど出来ないはずだ」
「やはり認識阻害魔法を使っておったか、しかしお主等の認識阻害魔法などウルリカ様愛の前には無力ということですな」
夢中で舞台に食らいついていたにもかかわらず、アブドゥーラとザナロワの怪しい動きを見逃さなかったらしい。アルフレッドとノイマン学長のウルリカ様愛、まったくもって恐るべしである。
「ところで聞き捨てならぬ話をしておりましたな、ロームルス学園に魔物を放つと……?」
「お前達は学園祭を台無しにするつもりか……」
二人は怒りの形相でアブドゥーラとザナロワに迫る。
「ウルリカ様は学園祭を楽しみにしておりましたな、その学園祭を貴様等は台無しにするつもりか!」
「許されざる蛮行、決して捨て置けぬ悪行だ! 愛しき少女の楽しみを邪魔する不届き者共は──」
「「万死に値する!」」
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