第42話 国家滅亡対策

 ウルリカ様の初登校から一夜明けて。

 ロームルス城の会議室は、物々しい雰囲気に包まれていた。


 集まっているのは、ゼノン王、ヴィクトリア女王、ルードルフ大臣の三人。

 そして、シャルロット、ナターシャ、ベッポ、シャルル、ヘンリーの、下級クラス五人だ。


「それではこれより、国家滅亡対策の緊急会議を開催する!」


 静かな会議室に響き渡る、ゼノン王の大きな声。

 下級クラスの教室倒壊、および授業の中止を受けて、緊急の対策会議を開いているのである。


 ちなみに、ヴィクトリア女王の参加理由は、ただの賑やかしだ。

 緊急会議の噂を聞きつけて、どこからともなく紛れ込んだのである。


「さて、本題へと入る前に確認だ。シャルロットよ、ウルリカは今日どうしている?」


「学生寮にいますわ、昨日からワタクシ達の共同部屋に閉じこもっていますの」


「あら……いつも元気なウルリカちゃんなのに、閉じこもっちゃうだなんて」


「昨日の一件でずいぶん落ち込んでいますわ、今はオリヴィアに慰めてもらっていますの……」


「ふむ……そうか……」


 暗い雰囲気の流れる中、一人の生徒が手をあげる。


「あの~……」


 手をあげたのは、男子三人組の一人。

 元シャルロットの取り巻き少年、ベッポである。


「どうして俺達は、突然王城に呼ばれたのでしょうか? そしてなぜ、国王陛下や女王陛下と会議をしているのでしょうか?」


「あ、それはボクも知りたいですね。今朝いきなり王城に呼ばれて、そのまま会議に参加させられましたので、状況を把握出来ていません……」


 ベッポとヘンリーの質問を受けて、ゼノン王はルードルフに耳打ちをする。


「おい、ルードルフよ。ちゃんと事情を説明していないのか?」


「とにかく急いで生徒を集めろ、と指示を受けましたからね。説明も省きましたよ」


「そ……そうか……そうだったな……」


 耳打ちを終えたゼノン王は、ベッポとヘンリーの質問に答える。


「この会議は、ウルリカを学校に通わせることを目的としている。その為に、クラスメイトであるお前達からも意見も聞きたくて呼んだのだ」


 ゼノン王の答えを聞いて、今度はシャルルが手をあげる。


「質問です! 国家滅亡対策とはどういう意味でしょうか! ウルリカ嬢を学校に通わせることと、どう関係しているのでしょうか!」


「そうか、お前達はウルリカの事情も知らないのだったな……」


 コホンと咳払いをするゼノン王。


「実は、ウルリカは魔王なのだ」


「「「……は?」」」


 ゼノン王の答えに、揃って首をかしげる男子三人組。


「ウルリカの正体は、魔界から人間界へとやってきた魔王なのだ」


「「「はぁ……」」」


「ウルリカの望みは学校に通うことだ。とにかく学校に対して、非常に強い思いを抱いている。しかし現状は学校に通えていない、これは非常にマズい状態だ」


 真剣な声色で、ゼノン王は話を続ける。


「魔王ウルリカの力をもってすれば、国家など一瞬で滅亡するだろう。そのウルリカの機嫌を損ねる事態が起きている。つまり現在、ロムルス王国は国家滅亡の危機に瀕しているということだ。故にこうして、国家滅亡対策の会議を開催している。分かったか?」


「「「は……はい……」」」


 男子三人組は、なんとも言えない表情で頷く。

 ゼノン王の話を信じきれていない様子だ。

 しかしゼノン王は、構わず会議を先へと進める。


「では本題だ。ウルリカを学校に通わせたいのだが、王家の権力も学園には通用しない。なにか解決策を考えなくてはならないのだが……よい解決策を思いつく者はいるか?」


「ワタクシは……思いつきませんわね……」


「あの無垢な少女を、これ以上悲しませるのは辛いですが……自分も思いつきません!」


「陛下の権力も通用しないとなると……難しいですね……」


 ゼノン王もルードルフも、下級クラスの五人もみんな、頭を悩ませ唸っている。

 そんな中、冷ややかな声をあげるヴィクトリア女王。


「あなた……人にばかり考えさせてちゃダメよ? 国王なんだから、自分でしっかり考えて」


「うっ……そうだな……」


 ヴィクトリア女王からの圧力を受けて、必死に考え込むゼノン王。


「うーむ……シャルロットよ、ハインリヒという生徒会長からの話を、もう一度詳しく教えてくれ。出来るだけ詳しく、正確にな」


「ええと……それは……」


 ゼノン王の問いに、シャルロットは言いよどんでしまう。


「お恥ずかしながら、あの時はかなり興奮していたもので……あまり覚えておりませんのよ」


「そうか、学園からの通達内容を詳しく知ることが出来れば、解決策に繋がると思ったのだが……」


 再び目を閉じて考え込むゼノン王。

 すると、話を聞いていたヘンリーが、静かに手をあげる。


「生徒会長の話でしたら、正確に覚えていますよ」


「ほう? お前は確かヘンリーといったな、詳しく教えてくれるか?」


「では、『今日から、お前達の教室はここだ』、『下級クラスごときに説明してやる義理はない』、『教室はここにある、下級クラスにはこれで十分だ』、『下級クラスの授業は全て中止となった。学園からの授業は一切ない。お前達はここで好きに過ごしていて構わない』──」


 まるで読みあげているかのように、ヘンリーはハインリヒの言葉を暗唱していく。


「──『今年は下級クラスに教師はつかない。教師がほしければ自分達で見つけてきたらいい』、『嫌ならさっさと辞めてしまうことだ』、『控えろ、私は生徒会長なのだぞ』──」


「待て待て! そこまで分かれば十分だ」


 片手をあげて話をさえぎるゼノン王。

 会議室にいる全員が、ヘンリーの記憶力に驚いている。


「凄いですわね、そんなにはっきり覚えているなんて」


「大したことではないです、ただの特技ですね」


「いえ、とても凄い特技ですよ! ビックリしてしまいました」


 シャルロットとナターシャは、ヘンリーに称賛の言葉をかける。

 暗い雰囲気だった会議室に、少し緩んだ空気が流れる。


 その時、ヴィクトリア女王はポンッと手を叩いて立ちあがる。


「そうだわ!」


「ん? どうしたヴィクトリア」


「ヘンリー君の話を聞いて、閃いたのよ」


 自信満々、というか妙に楽しそうなヴィクトリア女王。

 その様子に、ルードルフは怪しむそぶりを見せる。


「ヴィクトリア様……なにを閃いたのですか……?」


「フフッ、下級クラスのみんなに、授業を受けてもらえる方法よ!」


 ヴィクトリア女王はゼノン王へと視線を向ける。


「あなた、ここは私に任せておいて」


 そして、下級クラスの五人へと視線を移す。


「みんなの為に、一肌脱いじゃうから」


 こうして、ヴィクトリア女王は、ニッコリと美しい笑顔を浮かべるのだった。

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