第43話 本当の初登校!

 初登校の日から数日。

 ロームルス城での対策会議を終えて、今日は二回目の登校の日。


 雲一つない、晴れ渡った空の下。

 下級クラスの六人とオリヴィアは、寮から学園への道を歩いていた。


 多くの生徒が行き交う中、下級クラスの一行に、他クラスの生徒から注目が集まる。

 注目を集める大きな存在があるからだ。それは──。


「うむぅ……ヴィクトリアよ……妾は心配なのじゃ……」


「ウルリカちゃん、心配しなくても大丈夫よ」


 ロムルス王国の女王、ヴィクトリアである。

 ウルリカ様達と一緒に、学園に向かって歩いているのだ。


 国内最高峰の美貌と、凹凸のある見事な体形を持つヴィクトリア女王。

 その圧倒的な美しさで、生徒達の注目を集めまくっているのである。


「ヴィクトリア様、相変わらずお美しくて素敵だわ……なのにどうして下級クラスなんかと……?」


「ヴィクトリア女王陛下、もの凄い色っぽいよな。なんで下級クラスなんかと……羨ましいな……」


 騒ぎは瞬く間に広がり、周囲には多くの生徒が集まっていく。

 そんな中一人の男子生徒が、生徒の波をかき分けてやってくる。


 生徒会長のハインリヒである。


「おい! 朝からなんの騒ぎなんだ? 早く教室に……あなたは……」


「あら、騒がせちゃったみたいね」


 ペロリと舌を出すヴィクトリア女王。

 それを見た何人かの男子生徒は、顔を真っ赤に染めながら腰を抜かしてしまう。

 恐るべきヴィクトリア女王の色気だ。


 しかしハインリヒは、色気に惑わされることなく、キリっとした表情でヴィクトリア女王の前に立つ。


「はじめまして、生徒会長のハインリヒです」


「ハインリヒ君ね。はじめまして、ヴィクトリアよ」


「早速ではありますがお聞かせください。なぜ女王陛下は学園にいるのでしょう? これは一体なんの騒ぎなのでしょう?」


 ハインリヒの質問に、ヴィクトリア女王は答える。


「実は下級クラスの先生をすることになったのよ、だから一緒に登校しているの」


「下級クラスの先生……? それはどういう……一体なんの話をしているのです?」


 ヴィクトリア女王の答えを、ハインリヒは理解出来ずにいる。

 話を聞いていた周りの生徒達もキョトンとした表情だ。

 それに気づいて、丁寧に説明を加えるヴィクトリア女王。


「今日から私、ヴィクトリア・メリル・アン・ロムルスは、下級クラスの先生になったのよ。下級クラスの授業をするために、今から教室を見にいくの。ハインリヒ君とは別のクラスだけど、これからよろしくね」


 そう言ってヴィクトリア女王は、パチリとウインクをする。


「なるほど、女王陛下に先生を……」


 そして、一瞬の沈黙が流れ──。


「「「「「はあぁっ!?」」」」」


 ハインリヒも周りで見ていた生徒達も、揃って驚きの声をあげる。

 驚きすぎて、硬直している生徒もいるくらいだ。


「女王陛下! おかしなことを言わないでください!」


「あら、おかしなことなんて言ったかしら?」


「言っていますよ! 女王陛下に教師をしていただくなんて、そんなこと不可能です!!」


 予想外の事態に、ハインリヒは冷静さを失ってしまう。

 一方のヴィクトリア女王は、ゆったりと余裕な態度だ。


「心配しなくても、お仕事は夫に任せてきたわ。私は毎日先生を出来るわよ」


「そういう問題ではありませんよ!!」


「だったら一体なにが問題なのか、教えてくれるかしら?」


「なにって……それは……っ」


 慌てて答えようとしたハインリヒ。

 しかし、「ふぅ」と息を吐いて、冷静さをとり戻す。


「まずですね、下級クラスだけ勝手な授業を受けるなんて、そんなことは許されません」


「そうなの? でもねぇ……」


 ニコリと笑うヴィクトリア女王。

 見る者をゾクリとさせる、美しくもしたたかな笑顔だ。


「ハインリヒ君は『下級クラスは好きに過ごして構わない』って言ったのよね? だったら勝手に授業を受けたって問題は無いでしょう? 好きに過ごして構わないのだから」


 ハインリヒは「うっ」と言葉を詰まらせる。


「しかし勝手に先生を、しかも女王陛下を連れてくるななんて、許されるはずない」


 再びニコリと笑うヴィクトリア女王。

 ハインリヒの背筋に、凍えるような寒気が走る。


「でもハインリヒ君『教師がほしければ自分達で見つけてきたらいい』って、そう言ったらしいじゃない?」


「なっ……どうしてそれを……」


「“どこから” “誰を” 教師として見つけてくるか……指定しなかったのよね?」


「いや……でも……」


「フフッ、ハインリヒ君は生徒会長なんだもの。言い忘れてました、なんてことないわよね?」


 ヴィクトリア女王はハインリヒのおでこをツンとつつく。

 あまりにも色っぽい仕草に、ハインリヒは思わずうつむいてしまう。


「くぅ……しかし女王陛下に授業なんて……出来るわけない……」


「それなら心配無用よ」


 自信満々に胸を張るヴィクトリア女王。


「私はロムルス王国の現女王として、国の歴史、社交の場での貴族の礼式、他国を含む国際事情の授業をするつもりなのよ」


 話を聞いていた周りの生徒達から「女王様の授業、いいなぁ……」と声が漏れる。


「そういった知識において、私より詳しく授業を出来る人って……夫か大臣くらいじゃないかしら? それでもハインリヒ君は、私に授業は出来ないと思うのかしら?」


 ヴィクトリア女王からのトドメの一言で、ハインリヒは完全に黙り込んでしまう。

 しばらく黙り込んでいたかと思うと、ゆっくりと口を開く。


「分かりました……分かりましたよ! 好きにして結構です!!」


 悔しそうに言葉を絞り出すハインリヒ。

 それを聞いて、ワッと盛りあがる下級クラスの生徒達。

 そして、誰よりも嬉しそうなウルリカ様。


「やったー! 嬉しいのじゃー!! 待ちに待った授業なのじゃ~!!」


 ピョーンと飛びあがって、ヴィクトリア女王にギュッと抱きつく。


「ありがとうなのじゃ! ヴィクトリア先生!!」


「はうぅんっ……ウルリカちゃん、可愛すぎるわ……!」


 ウルリカ様の可愛らしさに、ヴィクトリア女王はメロメロだ。

 先ほどまでのゾクリとさせる雰囲気は、一体どこへいったのやら。


 はしゃぎ回るウルリカ様に、オリヴィアはそっと鞄を手渡す。


「よかったですねウルリカ様、今日が本当の初登校ですね!」


「うむ、その通りじゃな! 本当の初登校なのじゃ!!」


 こうして、無事に“本当の初登校”を迎えることが出来た、ウルリカ様なのであった。

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