第25話 王都の夜を、うごめく影
王都ロームルスの夜は暗い。
月明りと、街灯の微かな光が町を照らす。
ぼんやりと薄暗い夜道に、若い女の姿があった。
「はぁ……遅くなっちゃったわ……んふふ……」
ほんのりと酒の匂いを漂わせ、フラフラおぼつかない足取りで歩いている。
たまに理由もなくニヤニヤと笑っている、酒に酔っているのだろう。
「ぅうん……この辺りは暗いから嫌なのよねぇ~……転んじゃうわ~」
女の歩いている道は、ロームルス学園に面する大通りだ。
静かな通りに、女の靴の音だけがコツコツと響いている。
「そこの……」
微かに聞こえる、低い男の声。
突然聞こえた声に、女は驚いて足を止める。
「えっ……?」
「そこのお嬢さん……少しよろしいかな?」
男の声は、建物の影の暗がりから聞こえてくる。
「夜遅くに一人で歩いていると、危ない目にあいますよ……」
ヌルッ……と影からはい出してくる男。
黒いマントと帽子姿の、怪しい雰囲気の男である。
しかし、酔っている女は強気な態度だ。
「はぁ? なによ? あんたの方がよっぽど危ないんじゃないのぉ?」
カツンッっと石をけっ飛ばす。
飛ばされた石は、放物線を描き──。
「ヒヒヒッ……」
スルリと男の体を通り抜け、道の反対側へコロコロと転がっていく。
「……なに……今の……?」
「どうやら恐怖しているな……ヒヒッ」
不気味に笑う男。
次の瞬間、男の体は霧のように散ってしまう。
まるで夜の闇に溶けてしまったようだ。
「嘘!? どこに行ったのよ?」
「……後ろですよ……」
慌てて振り返る女。
目の前には、先ほどの怪しい男が立っていた。
「美味そうな匂いだ……」
ニヤリと笑い、「はぁ」と息を吐く男。
開いた口から、二本の鋭い牙が覗いている。
「いやっ……うぐぅっ!?」
悲鳴をあげる間もない。
男は女に覆いかぶさり、素早く体を押さえ込む。
動けない女の首筋に、二本の牙が差し込まれる。
「あ……誰……か……」
健康的だった女の顔色は、真っ白に染まっていく。
血の気を失い、ガックリとその場に倒れる女。
男の口元からは、真っ赤な血が滴っている。
「ヒヒヒッ……美味かったぞ……」
女をその場に残し、夜の闇に消えていく男。
王都の夜を、怪しい影がうごめく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます