第26話 吸血鬼事件

 早朝、ロームルス城。

 国王の執務室に、三人の男が集まっていた。


 一人はロムルス王国の王、ゼノン王。

 もう一人は、大臣ルードルフ。

 そして最後の一人は、学園の最高責任者、ノイマン学長である。


 テーブルを囲む男達は、深刻な表情を浮かべている。


「ルードルフよ、報告内容に間違いはないのだな?」


「間違いありません、私も直接確認しました。死体となって見つかった女性、首筋に噛まれた跡が残っていました」


 テーブルの上には、いくつもの紙が乱雑に並べられている。

 その中の一枚を、ルードルフは読みあげていく。


「被害者の名前はロゼッタ、ロームルス学園の教師です。昨夜は友人達と遅くまで飲み歩いており、その後一人で歩いて帰ったそうです。最後に目撃したのは友人の女性。そして、今朝になり全身の血を抜かれた状態で発見されております」


「……吸血鬼……か……」


 シンと静まり返る執務室。


「ええ……吸血鬼の仕業で間違いないかと思われます」


「くそっ、よりによって王都に現れるとは……」


「奴らは人類の敵ですな、最も邪悪と言われている生き物の一つですぞ」


「数年前を思い出しますね……吸血鬼との大規模な戦い、あの時は大変な被害を出しました」


「人間と吸血鬼の争いは長いですからな、相容れない存在なのでしょうな」


 執務室に重苦しい空気が流れる。


「とにかく、厄介なことになりましたよ。吸血鬼と人間、見た目はほとんど同じです。どこに潜んでいるかも分かりません」


「事件のあった場所からするに、パラテノ森林のどこかですかな。あるいは学園内部の可能性もありますぞ」


「陛下、どのように対処しますか?」


 目を閉じて、じっと考え込むゼノン王。

 ゆっくり目を開くと、ルードルフに指示を出す。


「王都全域で夜間外出を禁止とする、警備隊を総動員して国民を守れ。それと、速やかに討伐部隊の編成だ!」


「かしこまりました」


「それとノイマン学長──」


「みなまで言いなさるな、ワシを呼んだ理由は察しておりますでな」


 ノイマン学長は、片手をあげてゼノン王の言葉を制する。


「被害者は我が校の教師……学園内部も安全とは言えないでしょうな。しばらくは休校といたしましょう」


「話が早いな、礼を言う」


 普段は仲の悪い王家と学園。

 しかし今回に限っては、速やかに協力関係を築いている。

 それほど吸血鬼という存在は、人間にとって脅威なのである。


「さて……ここからが本題なのだが……」


 深刻な表情を浮かべるゼノン王。

 よりいっそう、重苦しい空気が流れる。


「休校ということは、明日予定されていたウルリカの初登校も延期になる……どうしたものか……」


「どうしましょうかね……」


「どうしたものですかな……」


 黙り込む三人の男達。

 吸血鬼の話の時よりも、はるかに深刻な雰囲気である。


「ヴィクトリアから聞いた話だと、ウルリカは初登校をとてつもなく楽しみにしているらしい」


「とてつもなく、ですか……」


「ああ、とてつもなく、だ」


 「はぁ」とため息をつくルードルフ。

 ゼノン王は頭を抱えてしまっている。


「休校によって登校出来ない、ということになれば……」


「……国家滅亡ですか……?」


「「「……」」」


 シーン……と静まり返る執務室。

 その時、バーンッと扉が開き、小さな影が飛び込んでくる。


「ゼノン! おるか~?」


 学生服に身を包んだ、小さな魔王様の登場である。

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