第24話 魔界の大公爵

 ここは魔王城。

 魔界の中心に建つ、巨大な城だ。

 ウルリカ様のいない謁見の間に、強大な魔力が集っていた。


「皆さん、よくぞ集まってくださいました」


 丁寧に一礼をする、魔界の宰相ゼーファード。

 目の前には、五体の魔物が並んでいる。


 ゼーファードを含めた、六体の魔物達。

 彼らこそ、ウルリカ様直属の、魔界の大公爵である。


 宰相、ゼーファード・ヴァン・シュタインクロス。

 銀星、エミリオ・アステルクロス。

 炎帝、ミーア・ラグナクロス。

 黒竜、ドラルグ・ドラニアクロス。

 悪鬼、ジュウベエ・ヤツセ。

 百獣、ヴァーミリア・アニマクロス。


 それぞれが魔王を名乗ってもおかしくない程の、強大な魔物達だ。


「本日は非常に重大な──」


「グルル……」


 ゼーファードの言葉を、低いうなり声が遮る。

 声の主は、漆黒の巨大なドラゴン、黒竜ドラルグである。


「グルルルゥ、前置キハ不要ダ、早クハジメヨ」


 ドラルグに続いて、百獣ヴァーミリアと、銀星エミリオも声をあげる。


「そうねぇ、早く本題に入ってちょうだいよぉ」


「ゼーファードさん、早くしましょうよ!」


「まぁまぁ皆さん、落ちついてください」


「うむ……宰相殿の言う通り、焦っても仕方ない」


 悪鬼ジュウベエは落ち着いた様子を見せる。

 しかし、炎帝ミーアはソワソワと落ち着かないようだ。


「早くしてよっ、アタイもう待ちきれないんだから!!」


 大公達から、じりじりと追い詰められるゼーファード。

 「はぁ」とため息をついて、本題に入る。


「分かりましたよ、はじめましょうか……」


 ゼーファードの一言で、一気にピリピリとした緊張感が流れる。


「これから行う魔法は、非常に高難易度、かつ危険なものです……決して気を抜かないように……いいですね?」


 静かにうなずく大公達。


「それでは……私に魔力を集めてください!」


 合図と同時に、大公達の魔力がゼーファードへと集まっていく。


「くぅっ……いきますよ!!」


 謁見の間は、膨大な魔力と大量の魔法陣で埋め尽くされる。

 衝撃で空気は震え、壁や柱にひびが走る。


「発動せよ! 時空間魔法!!」


 一点に集まる魔力。重なりあう魔法陣。

 そして──。


 ──。


「はぁ……はぁ……どうです? 繋がりましたか?」


 なにもなかった空間に、ぽっかりと穴が開いている。

 時空間魔法によって作られた、次元の穴だ。


「ずいぶん小さいけどぉ、ちょっと待ってねぇ……」


 握りこぶし程の小さな穴を、ヴァーミリアはそっとのぞき込む。

 しばらくすると「あっ」と声をあげる。


「見つけたわぁ! ウルリカ様よぉ!!」


 ワッと盛りあがる大公達。

 一斉に次元の穴へと殺到する。


「邪魔ダ! 我ニモ見セロ!!」


「ボクが先に見るのです! 邪魔をしないでください!!」


「アタイだってウルリカ様を見たいよ!」


「む……俺にも少し見せてくれ……」


 小さな次元の穴を前に、大きな魔力がぶつかりあう。

 大公同士のぶつかりあいは、魔王城全体を大きく揺らす。


「落ちつきなさい!!」


 大声で一括するゼーファード。

 あまりの迫力に、大公達も大人しくなる。


「ウルリカ様を見たい気持ちは分かります! 美しくっ、麗しくっ、可愛らしいっ、そんなウルリカ様を一目見たい気持ちは、痛いほど分かりますとも!!」


 ゼーファードの言葉には、異様な熱がこもっている。

 ウルリカ様に対する愛が、溢れて止まらない様子だ。


「しかしここは順番です! でないとウルリカ様の魔王城が壊れてしまいます!!」


「ム……承知シタ」


「まぁ仕方ないわねぇ」


 ゼーファードの取り仕切りで、穴の前へと並ぶ大公達。

 おもちゃの列に並ぶ、子供のような光景だ。


「ではまずエミリオから、どうぞ」


「えっと……あっ、ウルリカ様だ! 相変わらず可愛らしいですね。お~いっ、ボクの声は聞こえますか~?」


「そこまでです。次、ドラルグの番です」


「オォッ、ウルリカ様! 元気ソウダ……トテモ楽シソウダ……ソシテ可愛ラシイ……」


「はい次、ヴァーミリアです」


「あの可愛らしいお洋服はなにかしらぁ? とっても似合ってるわぁ……あ~んっ、抱っこしたい!」


「次ですよ、ミーアの番です」


「どれどれ~……いた! いつ見ても可愛いね。ウルリカ様、こっち向いてー!!」


「ジュウベエの番ですね、どうぞ」


「ふーむ……ウルリカ様、可愛らしいことこの上ない……」


「さて、私の番ですか……」


 最後はゼーファードの番だ。

 次元の穴をのぞき込んだかと思いきや──。


「うおぉ~っ、ウルリカ様ぁ!! 相変わらずの美しさと麗しさ! そして可愛らしさです!! むむっ!? あの着ている洋服は……とてつもなく似合っていますね! 流石はウルリカ様あぁっ!!」


 ケタケタ笑いながら、ボロボロと涙を流すゼーファード。

 ウルリカ様への愛が爆発したかのようだ。まさしく爆発したのだろう。

 あまりの豹変っぷりに、大公達は呆れ返ってしまう。


「ゼーファード……普段はキリッとしてるのにぃ、ウルリカ様のことになるとねぇ」


「ウルリカ様ヘノ愛ガ深スギルノダ……」


 その時、次元の穴から小さな声が聞こえてくる。


「──お~い──」


 ハッとする大公達。

 ギュウギュウになって、次元の穴をのぞき込む。

 穴の向こうでは、制服姿のウルリカ様が、両手を広げて手を振っていた。


「お~い!!」


「ウルリカ様! ボク達に気づいてくれたんだ!!」


「手を振ってくれるわぁ! 可愛いわねぇ!!」


「オオッ! ナント愛クルシイ……ッ」


 ピョンピョンと飛び跳ねながら、大きく手を振るウルリカ様。


「妾は学校にいってくるのじゃ~!」


 パチリとウィンクをして、講堂に入っていく。

 可愛らしすぎる仕草に、大公達はワッと湧きあがる。


 この日の魔王城は、過去千年で最大の盛りあがりだったという。



 ✡ ✡ ✡ おまけ ✡ ✡ ✡



 妾の可愛い配下を紹介するのじゃ!


 宰相、ゼーファード・ヴァン・シュタインクロス。

 妾の右腕じゃな、種族は悪魔じゃ。

 いつもキチッとタキシードを着ておる、背の高いイケメンじゃ。


 銀星、エミリオ・アステルクロス。

 魔法の天才じゃ、種族は雑種じゃな。

 リヴィと同い年くらいの見た目をした、可愛い男の子じゃ。


 炎帝、ミーア・ラグナクロス。

 元気いっぱいな、巨人の女の子じゃ。

 うっかりさんで、歩いた拍子に魔王城を壊してしまったりするのじゃ。


 黒竜、ドラルグ・ドラニアクロス。

 真っ黒なオスのドラゴンなのじゃ。

 大きくて怖い見た目じゃが、とても人懐っこいのじゃ。


 悪鬼、ジュウベエ・ヤツセ。

 ブシドーな剣士なのじゃ、種族は鬼じゃな。

 寡黙で真面目な男なのじゃ、しかしあまり目立たないやつなのじゃ。


 百獣、ヴァーミリア・アニマクロス。

 背の高いお姉さんなのじゃ、キマイラという種族じゃ。

 妾を見るとすぐに抱っこしてくる、たまにうっとうしいのじゃ。


 みんなとっても可愛いのじゃ、元気そうで安心したのじゃ!!

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