第9話 入学試験、開始!

 晴れ渡る空の下、高くそびえ立つ立派な建物。

 ロムルス王国最大にして最古の学園、ロームルス学園である。


 今日は入学試験の当日。

 緑の芝の校庭に、百人近い若者が集まっていた。

 試験を受ける受験生達だ。


「見てくれよ! 試験のために父上が剣を買ってくれたのだ、装飾が美しいだろう?」


「僕は鎧を新調してもらったよ! 白銀の文様がこだわりなんだ!!」


「私の杖をご覧になって! 先端には天然の魔法石がはめ込んでありますの。魔法の力を高めてくれますのよ!」


 校庭の真ん中に集まり、装備自慢をする受験生達。

 一方ウルリカ様とオリヴィアは、校庭の端っこでポツンと立っている。


「ふむふむ……みんな元気じゃのう、いいことじゃ……ポリポリ……」


「ウルリカ様……試験前なのですから、もっと緊張感をもってくださいよ」


 試験前にもかかわらず、クッキーをほおばるウルリカ様。

 呑気なウルリカ様を見て、受験生達はヒソヒソとうわさ話をする。


「彼女はホントに十歳以上なのか? まだ子供じゃないか」


「従者付きだなんて、冷やかしに来てるんじゃないのか?」


「みすぼらしい装備だわ、どういうつもりなのかしら?」


「すみませんウルリカ様、まともな装備が用意出来なくて……」


 謝るオリヴィア。

 ウルリカ様の装備は、演習の時に使っていた木刀と、オリヴィアに貰った小さな杖だけだ。

 他の受験生と比べると明らかに差のある装備だが、ウルリカ様はまったく気にしない。


「かまわんのじゃ、そもそも妾は武器など不要じゃからの! それに、あの者達の持っている様な粗悪品は使う気になれんのじゃ」


「粗悪品ですか? 凄く立派な武器に見えますが」


「あれらは練度の低い粗悪品じゃ、実用的ではない。あんなものを実践で使うとしたら、それはただの苦行じゃな」


 指先でクルクルと杖を回して見せるウルリカ様。


「ほれ、リヴィがくれた杖の方が軽くて扱いやすいのじゃ」


「そう言っていただけると嬉しいです」


「うむ!」


 杖をクルクル、クッキーをポリポリ、ウルリカ様はご機嫌だ。

 そこへシャルロット王女が、取り巻きの子女達を引き連れてやってくる。


「あら、田舎者の魔王様はずいぶんみっともない装備なのね」


「シャルロットではないか! 今日はお互いに頑張ろう!」


「相変わらず失礼ね……」


 シャルロット王女は持っていた杖をウルリカ様に向ける。

 金色の細工と赤色の宝石が綺麗な、見るからに豪華な杖だ。

 その杖をじっと見つめるウルリカ様。


「あら? ワタクシの杖が気になるのかしら?」


「うむ、シャルロットはその杖で試験を受けるのか?」


「その通りよ、試験のために用意した最高級の杖なの、あなたには一生縁のない代物ね」


 ニヤニヤと笑うシャルロット王女。

 ウルリカ様はというと、眉を八の字にして心配そうな表情だ。


「うむぅ……悪いことは言わぬから、今からでもまともな杖を準備した方がよいのじゃ」


「……は?」


「その杖は作りが雑すぎる、魔力がうまく通っておらぬのじゃ。しかも先端の石ころが魔力の通りを邪魔しておる。無駄の塊のような杖じゃ」


 杖につけられた宝石を、ツンツンとつっつくウルリカ様。

 それを見た子女達から、一斉に抗議の声が上がる。


「シャルロット様の杖に向かって、なんてことを言うの!」


「デタラメばかり言いやがって、正気じゃない!!」


「そうかのう? 見れば見るほど粗悪品なのじゃが……」


 遠慮のないウルリカ様の言葉。

 シャルロット王女はピクピクとこめかみを痙攣させている。


「ふんっ……まあいいわ、物の価値も分からない田舎者ってことよね。こんな田舎者の言うことなんて、真に受ける必要ないわ」


「そうか……シャルロットは強情じゃのう」


 キッとウルリカ様を睨みつけるシャルロット王女。

 その時、校庭に大きな声が響く。


「試験を開始する! 受験生は集まれ!」


「あら、そろそろ時間ね。そのみっともない装備で、せいぜい無駄に頑張ったらいいわ」


「シャルロットも頑張るのじゃぞ!」


「……ふんっ」


 去っていくシャルロット王女と取り巻きの子女達。

 残されたウルリカ様も、パタパタと校庭の真ん中へ走っていく。


「では妾もいってくるのじゃ!」


「はい、頑張ってくださいね!」


「うむ!!」


 こうして、ウルリカ様の入学試験が幕を開ける。

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