第8話 実技演習 ~剣術編~

 気を取り直して、剣術実技の演習。


 試験の内容は、木刀を使った一対一の模擬戦闘だ。

 訓練場には、本番さながらに演習にはげむウルリカ様の姿があった。


 片手に木刀を持ち、ピョンピョンと飛び回るウルリカ様。

 相手役である聖騎士のゴーヴァンが、巧みな剣技でウルリカ様に切りかかる。


「奥義、牙連斬がれんざん!」


 連続で突き出されるゴーヴァンの剣。目にも止まらぬ速度の奥義だ。

 しかしウルリカ様は、軽々とした動きで全ての攻撃をかわしてしまう。


「ほれ、しっかり狙うのじゃ」


「くそっ! なぜ攻撃があたらない!?」


「それはお主の剣が遅いからじゃ」


「遅い? そんな馬鹿な!」


 攻撃の速度を上げるゴーヴァン。


「奥義、疾風双刃しっぷうそうじん! さらに奥義、猛襲虎連撃もうしゅうこれんげき!!」


 息もつかせぬゴーヴァンの攻撃。だがウルリカ様は平然とかわし続ける。


「はぁ……はぁ……くっ!」


「動きが鈍っておるぞ、ほれっ」


「なっ、ぐあぁっ!?」


 宙を舞う木刀。

 地面に倒れ込むゴーヴァン。

 ウルリカ様の繰り出したカウンターが、ゴーヴァンを弾き飛ばしたのだ。


「馬鹿なっ……」


「もうお終いか? 情けないのう」


 子供のような見た目のウルリカ様が、屈強な聖騎士であるゴーヴァンを見下ろしている。

 その異様な光景に、見学していたゼノン王とオリヴィアは開いた口が塞がらない。


「ゴーヴァンを子供扱いとは……演習の必要などあるのか……?」


「ウルリカ様……強すぎます……っ」


「なんだこれは! この力の差は一体なんだ!?」


 地面を殴り、声をあらげるゴーヴァン。

 一方ウルリカ様は、缶からクッキーを取り出して口に放り込む。

 ゴーヴァンとは対照的に呑気な様子だ。


「そもそもお主、基本が全く出来ておらん……ポリポリ……」


「基本が出来ていない!? 聖騎士である俺が?」


「お主の肩書きは知らぬが、とにかく基本が中途半端じゃ。テクニックに頼り過ぎじゃな」


「中途半端……!?」


 遠慮のないウルリカ様の言葉に、ゴーヴァンは放心状態だ。


「剣での戦いなど、切る、突く、受ける、避けるがしっかり出来ておれば事足りる。細かいテクニックや奥義などは必要はないのじゃ……ポリポリ……」


 ピシャリと言い切ったウルリカ様。

 ゴーヴァンは激しい口調で反対の意を示す。


「剣術とはそんなに浅いものではない! 複雑な型や高度な技術を組み合わせて、はじめて完成するものだ!!」


「それは基本が完璧に出来ている前提の話じゃな。基本の出来ていないお主が言うことではないのじゃ……ポリポリ……」


「納得出来ん、技術に勝るものなどない!」


「ならば実際に見せてやるのじゃ」


「実際に?」


 クッキーを缶にしまい、スタスタと歩き出すウルリカ様。

 ゴーヴァンから十分な距離を取ったところで、木刀を両手で構える。


「見様見真似じゃが、お主の技を借りるぞ……っ」


 たどたどしい掛け声。

 そして鋭すぎる身のこなし。


 ウルリカ様が繰り出した技は、ゴーヴァンの奥義である牙連斬がれんざんだ。

 しかし、速度と精度はゴーヴァンとは桁違い。一瞬にして凄まじい衝撃波と突風が発生する。


 衝撃波に抉られて崩れ落ちる城の外壁。

 巻き上がった突風は竜巻を発生させ、木々をなぎ倒す。


「どうじゃ? お主と同じ技を使ってみたが、威力が違うじゃろう? 妾は基本がしっかりしておるからじゃ、基本は大事じゃ」


 フフンッと自信満々に胸を張るウルリカ様。

 だが、それを聞くゴーヴァンは目を見開いたまま固まっている。


「いや……基本とか……そういう話じゃないような……? あと……俺の奥義は……牙連斬がれんざんだ……じゃない……」


 固まっているのはゴーヴァンだけではない。

 繰り出された技の威力に、呆然とするゼノン王とオリヴィア。


「国王陛下……」


「どうしたオリヴィア?」


「本当にウルリカ様に試験を受けさせていいのですか? 学園が崩壊するかもしれませんよ……」


「あぁ……ちょっと後悔してきたところだ……」


 しばらくの間呆けていたゼノン王。

 我に返り、ウルリカに向かって声を張りあげる。


「ウルリカ! お前本気を出すの禁止な!!」


「なに!? どういうことじゃ! まだ一割も力を出しておらぬぞ!!」


「一割? 一割の力で俺はあしらわれていたのか……!?」


 ショックのあまりガックリと崩れ落ちるゴーヴァン。

 しかしゴーヴァンを気にとめる者は誰もいない。


「では言い方を変える! 試験の本番は最小最低の力で、手加減しすぎるくらい手加減すること、いいな!!」


「ううむ……ゼノンがそう言うならば仕方ないのう……友達じゃからのう……」


 つまらなそうなウルリカ様、口を尖らせながらそっぽを向いてしまう。


「オリヴィア、頼みがあるのだが」


「はいっ、なんでしょうか!」


「試験中お前がウルリカに同行出来るよう、学園に頼んでおく。ウルリカがやり過ぎないよう見張っておいてくれ」


「もっ、もちろんです!」


「それにしても……はぁ……心配だ……」


「はい……心配です……」


「まあよい、試験が楽しみじゃのう!」


 心配するゼノン王とオリヴィアを横目に、試験に向けて意気揚々なウルリカ様。


 こうして、実技演習を終えたウルリカ様。

 いよいよ明日は、入学試験の本番だ。

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