第7話 実技演習 ~魔法編~

 ウルリカ様が人間界に転移した翌日。

 快晴の空の下、ここはロームルス城の兵士訓練場。


「うむ、いい天気じゃ!」


「はい……そうですね……」


 ご機嫌な笑顔のウルリカ様と、緊張した表情のオリヴィア。

 そして……。


「ハッハッハッ! 確かにいい天気だな!!」


「はぁ……なぜ俺が……」


 豪快な笑い声をあげるゼノン王と、深いため息をつく聖騎士のゴーヴァン。

 広い訓練場に、四人だけがポツンと立っている。


「あの……国王陛下、質問してもよろしいでしょうか?」


「どうしたオリヴィア、申してみよ」


「なぜ国王陛下がここにおられるのですか?」


「試験に向けてウルリカが事前演習をすると聞いたのでな、友達として応援しに来たのだ」


「おお! 嬉しいぞゼノン、流石は妾の友達じゃな!!」


「なに、当たり前のことだ。ハッハッハッ!」


 無邪気に喜ぶウルリカ様と、豪快に笑うゼノン王。

 楽しそうな魔王様と国王様だ。


「えっと……ではゴーヴァン様はなぜここに?」


「国王陛下を一人にするわけにはいかない……護衛だ……」


 そっぽを向いたまま、沈んだ声でオリヴィアの問いに答えるゴーヴァン。


「まったく……なぜ俺が……他にも護衛は沢山いるだろうに……」


 不機嫌なゴーヴァンの肩を、ゼノン王がバシバシと叩く。


「そう言うなゴーヴァン。お前はウルリカの事情を知っているからな、都合が良かったのだ」


「ええ……理解はしていますが……」


「さてウルリカ、訓練場で演習ということは実技の演習だな?」


「知らぬのじゃ! リヴィに任せておる!!」


「おぉ……知らないのか……」


「うむ、全く知らぬ! ポリポリ……」


 自信満々に答えるウルリカ様。

 自分の演習だというのに、夢中で缶に入ったクッキーをほおばっている。

 呑気なウルリカ様の様子に、ゼノン王とオリヴィアはそろって頭を抱えてしまう。


「本日は魔法と剣術の実技演習ですよ、ウルリカ様にも昨日説明したじゃないですか」


「うーむ……そんなことを言っておったかのう」


「ちゃんと聞いてて下さいよ……ではもう一度説明しますね」


 コホンッと咳払いをするオリヴィア。


「ロームルス学園の入学試験は、筆記・魔法実技・剣術実技・実地での魔物討伐、の四種目です。今日はそのうちの魔法実技と剣術実技の演習をします」


「なるほど、筆記は常識問題だから置いておくとして、懸念は魔法と剣術、そして実地試験というわけか」


「ゴーヴァン様のおっしゃる通りです。ウルリカ様は魔王様だと伺いましたが、実力が未知数でして……演習をしておいた方がよいと思いました」


 そう言ってオリヴィアは、片手に収まる小さな杖を取り出す。

 キョトンとするウルリカ様に、小さな杖が手渡される。


「では早速はじめましょうか。ウルリカ様、これをお使いください」


「これは?」


「魔法の演習に使う、魔法媒体の杖です。新品は用意できなかったので、私が昔使っていたものですが……」


「誰のものでも気にはせぬが……媒体などなくとも魔法は使えるぞ? 使った方が良いのか?」


「普通は媒体なしだと威力が弱まってしまいますから、使った方がいいと思います」


「そうか、ではリヴィの言う通りにしようかの」


 クルクルと杖を回して遊ぶウルリカ様。


「で、なにをすれば良いかのう?」


「向こうに的を置いてます、あれを狙って攻撃魔法を打ってください」


「よし! やるのじゃ!!」


 次の瞬間、ウルリカ様から凄まじい勢いで魔力が立ち昇る。

 一瞬で沸き起こった濃密な魔力に、ゼノン王が慌てて止めに入る。


「ちょっと待て、威力は控えめで──」


 ゼノン王の言葉の途中で、無造作に杖を振るウルリカ様。

 杖の動きにあわせて、十メートルほどもある漆黒の球体が空中に出現する。


「おい! なんだこれは!?」


「陛下、お下がりください!」


「きゃあぁっ!?」


 球体から発せられる、耳をつんざくような叫び声。

 周囲の空気を飲み込みながら、巨大化していく漆黒の球体。

 的を飲み込み、城壁の一部を消し去った球体は、そのまま空の彼方へと消えていく。


 後には抉り取られた地面と、ポッカリと穴のあいた城壁が残る。

 そして、自慢気に腕を組むウルリカ様が立っていた。


「こんなもので良いかのう?」


「「「良くない!!」」」


 オリヴィアとゼノン王、そしてゴーヴァン。

 三人がそろって声を上げる。


「おいウルリカ、今の魔法はなんだ!?」


「ん? ただの滅亡魔法じゃが……」


「滅亡魔法!? そんなもの聞いたことないわ! 威力は控えめと言っただろうが!!」


「十分控えめだったではないか! 本気でやればこんな城、一瞬で消し飛んでおるのじゃ!!」


「あれで控めなのですか……」


「一瞬で城が……あり得ん……」


 ウルリカ様とゼノン王の会話を聞いて、顔を青くするオリヴィアとゴーヴァン。


「ウルリカよ、試験では先ほどの魔法は禁止だ」


「ならばどんな魔法を使えばよいのじゃ? 終焉魔法はどうじゃ?」


「お前はなにを終焉させるつもりだ! 無難に火の魔法とかに出来ないのか!?」


「火か、であれば極炎魔法か煉獄魔法か……」


「そんな物騒な名前の魔法を使うな! 学園が消し炭になるわ!!」


 頭を抱えるゼノン王。


「分かった、魔法はもう終わりだ。早く次にいってくれ!」


「仕方ないのう……では次にうつるのじゃ!」


 こうして、魔法の演習は強制終了となったウルリカ様。

 しかし、波乱の実技演習はまだまだ続く。

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