第1話
夢は記憶を整理する為に行う脳の作業の一つである。また、夢と認識しコントロールできる夢を明晰夢という。
なんでこんなことを思っているかというと、現在絶賛夢の中にいるからだ。
ただ、夢と分かっているがコントロール出来ず、いつもの様に遠浅の海を連想させるような広大な空間の中に立っていた。 そして自身に絡みつく視線を全身に感じながら。
「…また同じ夢か…。」
俺、
「…だけど夢とわかっていても居心地の悪さは感じるんだよな。はぁ、もういい加減にしてほしいよ。」
耐えられなくなり俺は、いつものように視線の主に叫んだ。
「姿を現したらどうなんだ。俺に何を伝えたいんだよ。」
『もうすぐ会えるよ。君が会いに来てくれればね。』
不意に聞こえてきた声に俺は驚いた。今回は返事が返ってきたことに。今まで 何度問いかけても何も返ってこなかった というのに。
「こうして話せるなら会えるだろう。今から行くから場所を教えろよ。」
『ここでは会うことは出来ないよ。でもヒントをあげるね。』
俺の目の前に突然見慣れたものが現れた。
「なんで…。俺のペンダントが…。」
ペンダントに触れようと手を伸ばした時、不意にいくつもの映像が浮かんだ。
「これは星尾山…、それに洞窟?神社?剣?」
呟いたとたん視界が暗転し、俺は炎に包まれた町にいた。妙な焦燥感に駆られ移動した瞬間、逃げ惑う多くの人々、その後ろに漆黒の人影と 9 つの影が襲い掛かり、切り裂かれている虐殺の場面に出くわした。
俺は怒り、憎しみ、悲しみ、恐怖といった感情が胸の中で渦巻き、動くことが出来なかった。虐殺が終わり、俺は隣に人の気配を感じた。
ふと、横を見ると一振りの太刀を持ち、プロテクターのようなものを纏って、険しい表情をした自分がいた。
その人物に気づいた漆黒の人型が一瞬で距離を詰め、目の前に立ち、腕を刀の形に変化させ攻撃を仕掛けてきた。
激しい剣戟が交わされ、俺は恐怖のあまり目をつぶった。
急に剣戟が聞こえなくなったので、恐る恐るめ開くとさっきの黒い影が5mぐらい先に立っていた。
あたりを見渡すと、もう一人の俺が消えており、俺は右手に剣を持っていた。状況を理解できずにいると、体が勝手に動き出し、再び激しい剣戟が始まっていた。
そんななか、意識だけがはっきりしている俺とは裏腹に、体のみ乗っ取られたように、極自然に右手に持っていた剣でその攻撃をいなし、そのまま流れるように背後へと回った。すぐさま左手に持っていた銃での攻撃で牽制し、バックステップで距離をとった。
そんな刹那の瞬間の攻防が終わり、右手で剣を構え、左手に銃を持つという、いわゆるガンカタスタイルで立っていることに気づいた。さらに頭は混乱していたが、俺の体のほうは勝手に更なる攻防を続けていた。幾度目かの攻防の後、仕切りなおしと距離をあけ、着地しようとした瞬間、唐突に視界が暗くなりハッとしたところで、目を覚ました。
§§§§§§§
意識がはっきりしてくるにつれ現実の喧騒が染み込んできた。 しばらくボーっとしていると扉をノックする音、続いて扉を開ける音がした。振り向くくとそこには我が高校のアイドルがいた。
うちの高校には学校のアイドルという存在はなかった。原因は去年の文化祭で行われたミスコンで、伊藤
そんなアイドルがドアから顔を覗かせて朝ごはんができたよと声をかけてきた。
俺は軽く返事をして何も考えす、着替えようとパジャマの上着を脱ぎ捨てた。
「ちょっ、いきなり脱ぎだすなんて何考えてるのよ。」
俺は気を取り直して、着替えようと制服を手に取りため息をついた。今朝の夢の件もそうだが、その夢を見始めてから
これまで彼女に対し、幼馴染以上の感情を持っていたが、今は、何か罪悪感を感じるようになっていた。頭を振って追い払い、準備ができたので部屋を後にした。
リビングに着くとすでに食卓には朝食が二つ準備されていた。
「サンキューな
俺は椅子に座りながら話しかけた。
「問題ないわよ。一人分も二人分も一緒だし。それに、家で食べてきてたら遅くなっちゃうじゃない。そんなのいいから、さっさと食べるわよ。」
朝食を食べていたら、ふとテレビから流れるニュースに意識を取られた。
「かつてない大惨事を引き起こしたエネルギー実験が行われてから、今日でちょうど一年目になります。悲しみの癒えない多くの遺族の方々が追悼式に参列する為、実験が行われた時刻、午後 3 時には慰霊会館に集まる予定です。」
「そっか。あの実験からもう 1 年がたつんだ。早いもんね。」
「そうだな、さすがに今日くらいはニュースにもあがる…の……か。」
話してる途中で俺は、急に夢の一コマの映像が頭をよぎった。その瞬間何か大事なことを忘れているような不安や焦燥といった感じが押し寄せてきて、一瞬言葉に詰まってしまった。
「どうしたの急に?心配事?それとも具合が悪いの?」
急に動きが止まった俺を心配して君佳が身を乗り出してきた。
「……いや、なんでもない。それよりも今日の予定って?」
あからさまな話題そらしに、君佳は呆れたような目をしていた。
「……もう、今日は学校が午前で終わるから、そのままマッ〇でお昼。そして御剣神社で調査よ。」
「御剣神社か…」
今朝の夢を思い出し、また考え込みそうになったのを心配させないためにも、意志の力で強引ににねじ伏せた。
「そうだった、今から夏休みの自由課題をやっていかなきゃいけないんだよな。期末が終わってすぐとか休ませてほしいよ。」
「文句言わないの。最優秀賞とれば、世界最高峰のパティシエがコラボしたフルーツタルトが食べれるのよ。」
「ほんとたかがタルト一つで女子のテンションが爆上がりしてたもんな。逆に男子は引いてたけど。あのテンションは怖かった。」
「あのタルトの為なら、どんな
熱くなった
気付けば時計の針がが8時を過ぎているのを見て、俺たちは慌てて食事を終え支度を整え学校へ向かった。
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