プロローグ2

 体育館程度の大きさの室内。その中央にストーンヘンジのように円形に配置された機械の前で白衣を着た男がコンソールを操作しながら話していた。

「魔人が現れてから 5 年。我々は多大な犠牲を払い、研究と戦いを繰り返してきたが、討伐にいたるまでの戦果は挙げられていない。むしろ、日増しに強大化していく魔人の力にかろうじて対抗できている状態だといわざるを得ない。現状のままだと近いうちにすべての人類は魔人に滅ぼされる。そうなる前になんとしても魔人を討伐しなければならない。」

操作を止め、振り返った先にいた一組の少年少女に言った。

「さっき姉ちゃんから話聞いたけど、信じられない感じなんだよな。タイムリープとか幼生態とか……。それにメンテに出してた俺の神器も過去に送ったって言うし。」

「確かにかけるの言うとおりよ。私も同じ気持ち。でも、諸葉もろはさんの言ってたことも事実よ。私たちには時間がないんだし、藁でもすがる思いでやるしかないと思うわ。」

「藁にもすがるったって…。なあ、まどか。考え直さないか。この作戦は生還率は低いし、命だってやばい。だからこそ参加してほしくないんだよ。。……俺は、おまえを失いたくないんだ。」

「…かける、前にも言ったけど、この世界はどこにいても同じ。……どうせ失う命なら、あなたの傍がいい。…それに約束したでしょ。どんな状況であれ、おたがいを信じ背中を守りあい、必ず生還するって…。私はあなたを信じてるし愛してる。かけるは違うの?」

「俺だって、想いは変わらない。まどかと最後まで共にいたいし、守りたい。だからこそ、だからこそ……この作戦は参加してほしくないんだ。まどかに生きていてほしいから……。君のいない世界なんて……生きたくもないし、守りたくもない。」

「翔の気持ちもわかるわ。私だって同じだもの。だからね、私も参加するの。……あなたを失いたくないから……。」

「それでも、…それでも!俺は!」

翔が勢い込んでまどかの肩に手を置いたとき、

「はいはいはい、この状況で二人の世界に入らないの!今はそんなこと言い合っている場合じゃないのよ、わかってる?……二人の気持ちもわかるけどね。」

二人が振り返ったさきに白衣を着た女性が立っていた。

「それと、二人とも勘違いをしてるわよ。一人じゃ意味がないのよ。二人でないと作戦は成功しないわ。あなたたち二人だけなのよ。現状で最も力が強くそして、シンクロ率が高いのは。詳しくは博士が説明するわよ。」

「姉ちゃん。」

諸葉もろはさん。」

諸葉もろはと呼ばれた女性は二人の呼びかけに軽く手を上げ答え、振り返ったままの状態で固まっていた博士に続きを促した。

「それでは、話を続けさせてもらおう。まず、時空転移についてだが、これは無機物に関してはそのまま転移できる。しかし、有機物や生きているものに関しては無機物のように転移できない。それは、無機物に比べ、情報が複雑すぎるからである。そこで考えられたのが、一度素粒子に変換し、転移先で再構築を行なうという方法だ。ただ、これには一つ問題があり、必要最低限の情報でしか再構築でいない。」

ここで博士は一同を見回し、言葉を続けた。

「簡単に言うと、赤ん坊の状態になってしまう。そう、これまでの経験、感情といった記憶がすべて失われる。」

それを聞いて、まどかが口を開こうとしたが、その前に博士はそれを手で制し続けた。

「そう、このままではただ過去に子供を送り込んだだけという結果になってしまう。そこで、さらに研究を行い後天的に記憶を移植できる装置を開発した。」

博士はモニターに二人の神器を映し出した。

「この装置を君たちの神器12柱に組み込み、断片的な記憶をインプットした。ああ、それとこれを君たちに渡しておこう。」

そういうと博士はポケットから一対のペンダントを出し二人に渡した。

「このペンダントは互いを認識できるようになっており、また、君たちの記憶を覚醒させる鍵となる。君たちが転移して 17 年後に起動し、夢という形で最初の神器へと導くようにしている。その後は手に入れた神器に次の神器の場所へと導くよう設定していて、記憶の混乱を防ぐため、徐々に記憶を取り戻せるようにしている。また、最後の神器を手に入れたとき幼生態の座標軸がわかるようにしている。後は、転移先で君たちを保護してくれる人たちを準備している。」

博士はコンソールを操作して、モニターに現状解明されている魔人のデータを映し出した。

「次に魔人についてだが、これまでの調査の結果、魔人が誕生したのは 2020 年今から 170 年前のエネルギー実験の失敗が原因だ。この時であれば、魔人の力は今の 100 分の1ぐらいであると推定されている。つまり、このときに魔人を倒せれば、この時間軸にいる魔人も消滅することとなる。……とここまでで質問はあるかな?」

「なんで、魔人が誕生したあとなんだ?失敗する可能性があるほうではなく、誕生する前に戻って実験自体を中止するほうがいいと思うんだけど?」

まどかも同じだとばかりに頷いていた。

「確かに君達の言うとおりだ。そのことについては我々も考えたのだが、様々なデータを解析し、何度シミュレートしても君達を 2020 年よりも前に転移させることが出来なかった。どうやら、素粒子に変換し転移させることが出来るのは年齢の 10 倍まで、つまり君達が 17 歳だから 170 年前までしか転移出来ないということになる。」

ここで博士は居住まいを正し頭を下げた。

「すまない。本来なら我々が行なわなければならないことなのに、力が足りないばかりに君たちにこのような役目を与えてしまった。……だが、願わくは、君たちの未来に幸あらんことを願っている。魔人を倒し平和な未来をつくり生きてほしい。」

「座標軸の設定および、時空転移の準備が整いました。かける君とまどかちゃんは転移装置の中央に移動して下さい。博士たちは装置から離れてください。繰り返します。座標軸の設定…。」

準備完了のアナウンスが流れ出し、諸葉もろはは博士を促しながら二人に声をかけた。

「博士、時間です。二人とも元気でね。あなた達なら大丈夫だと信じてるから。人類の未来を守ってね。」

瞬間、翔とまどかの周りをまばゆい光が覆い、光が消えた瞬間二人の姿も消えていた。

「……行ってしまいましたね。」

「……ああ……」

「……博士。あまりご自身を責めないで下さい。あの子達ならきっと大丈夫ですわ。……むしろこの時代を生きていくよりも幸せかもしれませんわ。……さぁ、博士。私達は私達の成すべきことを致しましょう。」

無事転移が完了したことを確認した二人が、お互いにそれぞれの作業を行おうとした瞬間、非常事態を告げるアラートが鳴り響き、爆発音がかすかに聞こえだした。

「どうやら、ここも魔人にかぎつけられたようですね。諸葉もろは君すまないがすべての隔壁を閉鎖してくれ。」

博士は諸葉に指示を出し、マイクに向かい全職員の退去を言い渡し、自爆装置を起動させた。

数秒後、作業を終えた二人は、全職員の退去を確認した後、緊急避難装置に飛び乗り、無事に脱出を果たした。

数分後、魔人軍が到達。魔人はあたりを見回した後、装置を起動し時空転移をしようとしたが魔物のみが成功し、魔人が転移する直前、転移装置を中心に大規模な爆発が起きた。

 全てが終わったその場所には何も残っていなかった。



少年は夢を覚えていない。

されど、いつか思い出す現実を……。

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