第31話:伏見京香は本音がだだ漏れ

 俺が伏見の足首に湿布薬を貼ってやると、彼女はポーッとしてなぜだか混乱している。

 そのせいで本音と建前が逆転して、心の中の気持ちを知らず知らずのうちに口に出してしまっている。


 これは大チャンスだ!

 伏見にうまく告らせることができたら、どっちから先に告白させるかっている勝負に勝つことができる。

 まあ勝負と言っても、俺が勝手にそう考えてるだけだが。


 そう思って、俺はもう一度伏見の顔をじっと見つめてみた。


『あら、東雲しののめ君。私の顔に何か付いてるかしら?』


 相変わらずホログラムの方が、クールな表情でツンツントークを仕掛けてくる。

 そしてリアル伏見と言えば……


「あーん、なんで勇介君は、こんなに私を見つめるのー? こんな真剣な目で見つめられたら、私、ヤバーい!」


 リアル伏見が目をトロンとさせて、顔を真っ赤にしてる。

 とろけそうな表情で、確かにヤバい。


 でも……どうすれば、伏見が告るんだろう?

 恋愛経験に乏しい俺にはさっぱりわからない……


「えっと……あのさ、伏見……」


『ん? 何か用?』


 ──と、ホログラム伏見がクールに答える。


「あ……足の具合はどうかな? まだ痛むか?」


 ──ああーっ! 極めて普通のことを言ってしまった! 何を言えばいいのか、ホントにわからねぇー!


 と思いながら伏見を見てたら、ポーッとした顔で、頬を赤らめている。


「……心配してくれて嬉しい! 勇介君って……優しいな」


 そう言って、実物の伏見は目を細めた。

 これは、今本音と建前が逆転してるんだから、本音でそう答えたってことだよな?


 ──えーい、ややこしいっ!

 

 でもまあ、そんなリアル伏見の態度に、胸キュンしてしまった。


「あ、いや……別に。普通だろ」

「ううん。勇介君は、優しいよぉ……」

「あの……俺のこと、勇介君……って呼んでる?」


 伏見のヤツ、本音の方が表に出てるもんだから、間違えて名前呼びをしてるんだな。


「へっ……? えっ……? ……あっ!」


 実物伏見の顔が、みるみるうちに真っ赤に染まっていく。

 自分の本音がだだ漏れになってることに、ようやく気づいたようだ。唇がわなわなと震えだした。


 ホログラムの方もこの世の終わりみたいに青ざめて、両手で頬を押さえてる。

 そして口をアングリと開けて、叫んだ。


『ひぇ〜〜〜っ! ついつい勇介君を名前で呼んじゃった〜! しかも、はっきりと覚えてないけど、なんか色々と言っちゃったような…… ああーっ! どーしよーっ!?』


 ──あ、しまった。

 ホログラムの方が、いつものように本音を叫んでる。とうとう気づいたみたいだ。


 本音が表に出てるのに気づかれたら、この機会に伏見から告らせる作戦がおじゃんになってしまう。

 それをすっかり忘れてたよ。


 ──でも、まあいっか。

 そんなことで告白されても、ホントの勝利とは言えない。


 ……あれっ?

 今、俺、カッコいいこと言ったよな?

 誰か褒めてくれ。


「あら、私どうしたのかしら? ちょっとボォーっとして、間違えて従兄弟いとこの名前を呼んでしまったわ」

「えっ……そうなのか?」


 伏見は顔が引きつってる。どう見ても嘘っぽい。


『うっわーっ! 私としたことが、ついうっかり勇介君の名前を口走ってたわー! でも大嘘こいて、完璧に誤魔化せたわねっ!』


 ホログラム伏見も急に我に返って、ガッツポーズしてる。


 それにしても美少女が「大嘘こいて」とか言うな。

 完璧どころか、全然誤魔化せてないし!


 ……相変わらずのポンコツぶりだな、伏見京香。まあいいけど。


「そうか。従兄弟の名前なのか」

「そ……そうよ」

「実は俺の名前も勇介っていうんだ」

「へぇ〜、そうなの? 偶然ね」


 何が偶然だよ。わざとらしい。

 笑いが漏れそうなのを我慢する。


「一瞬、俺の名前を呼ばれたかと思ってドキドキしたよ」

「へっ? ど……ドキドキ?」

「ああ、ドキドキ」


 伏見は口を半開きにして、焦った顔をしてる。どうだ、俺のこの仕掛けは?


『いやーん! 勇介君が名前を呼ばれて、ドキドキ、ウキウキ、天にも昇る気持ちだってー!』


 いや、ホログラム伏見よ。そこまでは言ってない。喜び過ぎだ。


『これは勇介君……私に惚れてるな』


 なぜ、またそこまで飛躍するかっ!?

 コイツの脳内は、いったいどうなってるんだ? お花畑満開かよ!?


 俺は少し呆れた顔で、伏見を見た。

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