第29話:伏見京香はもじもじする

 伏見は湿布薬を一枚取り出した後、ベンチに座ったまま、もじもじした感じで俺を見てる。

 いったいどうしたんだろうか?


 ──あ、もしかしたら……


『いやーん、勇介君。そこに立ってたら、足を上げれないよぉー』


 あ、そっか。

 俺が伏見の真正面に立ってるから、このままコイツが足を上げると、パンツが見えてしまう。


 だから伏見のヤツ、もじもじしてたんだな。


 もしかしたら、湿布を足首に貼ってくれなんてお願いされるのかもって、ドキドキした自分が恥ずかしい。


 ──って言うか、別に片足をベンチまで上げなくても、上半身を曲げて足首に湿布を貼ったらいいんじゃないか?


 伏見って、相変わらずバカだ……


『あ、そうだ! わざとパンツをチラ見せして、勇介君を悩殺しちゃうって手もあるなぁ〜』


 こらこら伏見よ。

 さらにバカなことを言ってやがる。

 冗談にしても、そんなことを考えるなよ。


 俺はさりげなく、伏見の隣りに腰を下ろした。


『ありゃりゃ。勇介君が移動しちゃったよ。これだとパンツのチラ見せができないー』


 おいおい。さっきのは冗談じゃなくて、もしかして本気だったのか?

 クールなキャラを装ってるくせに、なんてことを考えるんだよ、コイツは?


 ──とか言いながら。

 場所を移動してしまったことをちょっと後悔する。


 伏見は片足をベンチに上げようとしてるのか、何度か片足を持ち上げる。


「よいしょ。あれ? よいしょっ」


 だけどうまく持ち上がらないみたいだ。

 どうしたんだ?


『ふぇーん……身体が固くて、足がベンチまで上がらにゃい……』


 思わずガクっとズッコケかけたけど、なんとかふんばった。

 伏見の心の中が見えてることは、秘密だからな。


『ど……どうしよう……?』


 ホログラム伏見は動きが固まってる。


 いやいや。

 それこそ足をわざわざ上げずに、頭を下げて手を伸ばせばいいんじゃないか?


『あっ、そうだ! 足はそのままで、上半身を下げて手を伸ばしたら、足首に湿布を貼れるよねっ!』


 そうそう。

 ようやくそこに気づいたか。


 ──これで一件落着だな。


『ふぇーん……手が届かにゃい……』


 ──身体、固っ!!


 伏見は必死に手を伸ばしてるけど、自分自身の足首まで手が届いていない。

 コイツ、どんだけ身体が固いんだよ?


 上半身を前に折り曲げたまま動きが固まってる伏見を、俺は呆れて横から眺めていた。

 すると伏見は身体を折り曲げたまま、顔だけをゆっくりと横に回して俺の方を向いた。


 何も言わずに黙って俺を見ている。


「ど……どした?」

「べ……別に……」


 何が、別に、だよ?

 至ってクールな表情を装ってはいるけど、目が助けを求めてるじゃないか。


『ふえーん、どうしよーっ!? 勇介君に湿布を貼って貰いたいんだけど、足首をじっくり見られるなんて恥ずかしすぎるーっ!!』


 ホログラム伏見が泣きそうな顔で叫んでる。


 ──何を言ってるんだコイツは?

 さっきパンツをチラ見せするとか言ってたくせに。

 パンツを見せるのはいいけど、足首をじっくり見られるのは嫌なのか?


 安心しろ、伏見。

 俺は別に足首フェチでもなんでもない。


 むしろ、同じ見るならパンツの方が圧倒的に見たい。


 ──って、何を言ってるんだ俺は!?

 とにかく伏見の足に湿布を貼るのを、手伝ってやろう。


「あの……伏見さん?」

「へっ?」


 急にさん付けで呼んだからか、伏見は驚いている。

 俺もパンツのことを考えたりしてたから……あ、いやいや、女の子の足首に湿布を貼るなんて、そんな刺激的な未経験のことをしようと考えたから、ちょっと緊張して不自然な呼び方をしてしまった。


「あ、あのさ。湿布……貼ってやろうか?」


 伏見は無言のまま、俺の顔をじっと見つめてる。

 どうしたんだろうか?


『ああーん、どうしよう……やっぱり足首を舐めるように見られるのは、恥ずかしすぎて我慢できないーっ!』


 いやいや、伏見よ。

 舐めるように見るってなんだよ。

 俺をそんな変態だと思っているのか?


『足首を見られるのはやっぱり仕方ないかぁ……自分で貼れないんだし』


 そうだよ。始めから素直にそう考えろよ。

 足首を見られるとか変なことを伏見が考えるから、かえってなんだか変な感じに意識してしまうじゃないか。


 リアル伏見がゆっくりと口を開く。


「そうね。お願いしようかしら」

「お、おう。わかった」


 俺はベンチから立ち上がって、伏見の正面に移動する。

 伏見は上半身を起こして、俺に湿布薬を手渡す。


 湿布薬を受け取って、俺は伏見の足元にしゃがんだ。

 目の前に、白いソックスに覆われた伏見の足首がある。


 スカートの裾から伸びる伏見の足は色白で、そしてしなやかで綺麗だ。

 伏見の右足のソックスに両手をかけて、ゆっくりと下にずらした。


 ──なんだかとてもエロチックだ。

 俺はどんどん緊張してきて、心臓の鼓動がバクバクと鳴り始めた。

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