彼女と一緒にオカ研で相性を占ってもらったら、死相が出てると言われたのでスカートをめくってみた。
小糸味醂
彼女と一緒にオカ研で相性を占ってもらったら、死相が出てると言われたのでスカートをめくってみた。
「あの、あなた達2人に死相が出てます……」
年に一度の学園祭、僕は最近付き合いだした同級生の彼女と一緒に2人の相性を占ってもらおうと、オカルト研究会の部室にやってきた。
僕達の相手をしてくれたのは女子部員だろう。制服に身を包み、黒いベールをしていて顔がよく見えない。
って、なんで相性を診断してもらいに来たのに死相が出てるだなんて言われなきゃいけないんだよ!
ほら、僕の横の彼女も何だかすごく怯えた表情をしちゃってるじゃん!
「今すぐに別れないと2人に災いが起こるでしょう」
そんな、せっかく毎日苦労して苦労して苦労してラブレターを1年間365日、毎日1通ずつ、合計1460通、朝に下駄箱、昼休みに引き出し、放課後に下駄箱に、さらに彼女のお家のポストにも投函して、警察の手もかいくぐり、彼女の転校先まで追いかけてせっかくゲットした彼女と別れろって?
そんな簡単に手放せる存在じゃないんだぞ、僕の彼女は……。
「まあ、災いの具体的な内容につきましては、このリストに纏めておいたので、詳しくはこちらをご覧ください」
ああ、それはどうもご丁寧に………って違うだろ!
「あの、災いを回避する方法を教えて貰えませんでしょうか?ほら、僕の彼女もこんなに怯えている事ですし」
ほら、今日も家まで迎えに行った時から一度も手放していないこの彼女の右手。こんなにも震えてかわいそうに……。
彼女は僕の顔を見て涙を溜めつつカタカタと歯を鳴らしている。
そうか、そんなにこの占いの結果が怖かったんだな。
それなら僕が何とかしてみせようじゃないか!
大丈夫、安心してほしい。
どんな災いが起ころうとも、僕は絶対に君をこの数千件にも及ぶリスト化された災厄から守ってみせる!
そう、死が2人を分かつまで!
いや、死が2人を分かったとしても、僕は君を冥府まで追いかけていくだろう。
「ふむ、災いを回避する方法ですか。やはり別れるしか……」
「別れるってのは無しの方向で!」
「無茶を言わないでください。今すぐ別れないから……ほらその災いリストのNo.2362『学校が警察に取り囲まれる』が起こっちゃったじゃないですか」
オカルト研究会の部室から外を見てみるといつの間にか数十台のパトカーがこの学校を取り囲んでいた。
「ほ………本当だぁ。ど、どうしましょう!?占い師さん!」
「いや、だから今すぐ別れなさいって……」
「だからそれは無しの方向で!」
ほら、学校が警察車両に囲まれちゃったもんだから彼女がさらに怯えちゃってんじゃん!
既に彼女の双眸からは涙が溢れ出し、とめどなく流れ落ちている。
くそっ!警察め!一体何の用でここまで来たんだ?
彼女をこんなに不安にさせるなんてそれだけでも怒りを禁じ得ないが、こういう時こそ冷静にならないと、彼女が余計に不安になってしまうじゃないか。
少しでも彼女に安心をしてもらいたくて、彼女に僕の精一杯の笑顔を見せる。
そんな彼女は僕の笑顔を見て、まるで『イヤイヤ』ってふうに、涙で濡れ、恐怖の感情が張り付いた顔を横に振る。
そうだよな。僕と別れるなんて嫌だよな。僕と別れるなんて恐怖以外の何者でもないよな。
うん、僕だって絶対に嫌だ!彼女と別れるなんて死よりも辛い!
「占い師さん!もう一度、もう一度占ってください!僕達はどうしたら良いんですか!?」
「何度占っても同じです。彼女と別れるんです。そうする事で全ての災厄から逃れられるんです!」
「だからそれは無しの方向で!」
「だからそれが無茶なんですって!ほら、ほら、早く別れないと次の災いが起こりますよ」
「犯人につぐ!今すぐ人質を解放して出てきなさい!繰り返す……」
なんと警察は拡声器を使い、校舎に向かって叫んだのだ。
「ほら、その災いリストのNo.7299『警察が拡声器を使ってテンプレセリフを叫ぶ』が起こっちゃったじゃないですか……」
数十ページにもわたるリストを捲って見てみる。……これか!
つまりこの校舎内に凶悪犯が人質を取って立こもってるって事か!
大変だ!凶悪犯から彼女を守らないと!
相手は刃物を持っているかも知れない。銃を持っているかも知れない。
僕も武器を持たないと……って、あった!
何故かわからないけど、僕も刃物と銃を持ってる!
これで彼女を凶悪犯から守れるぞ!
僕はまた彼女に安心して貰おうと窓から差し込む太陽の光を、この銀色に輝く万能包丁に当てて彼女に笑いかける。
だが彼女は恐怖で言葉さえ発せないでいるようだ。
そうだよな。いくら武器を持ってたとしても、僕はどこにでもいるような善良かつ平凡な一市民だ。
凶悪犯相手に勝てるかどうかなんてわからない。
彼女はそんな僕を凶悪犯との戦いに送り出したくはないのだろう。
彼女はへたり込んでしまった。
これは僕に戦いに行くなっていう意思表示なのだろう。
ありがとう、君が僕を心配する気持ちはよくわかる。
その思いさえあれば僕は………。
僕は無敵なんだ!!
「別れる決心がつきましたか?」
占い師さんは突拍子もない事を聞いてくる。
いや、そんな気持ちなんて微粒子レベルでさえも持ち合わせていない。
今、僕にあるのは………戦う決意だ!
その時だった。
オカルト研究部の窓に迷い込んだ悪戯な風が占い師さんのベールを一瞬だけ翻す。
ん?この占い師さんの顔、見覚えが………。
僕は包丁と拳銃をポケットにしまい、占い師さんにゆっくりと近付いて、空いた右手で占い師さんのスカートをめくり上げる。
「ひゃっ!」
占い師さんが小さく悲鳴を上げるが気にしない。
そんな僕の視界に入ってきたのは、僕の登校時に1枚、教室に入った時に引き出しに1枚、下校時に1枚、毎日家のポストに1枚。365日、合計1460枚入っていたパンツと同じデザインのパンツだった。
「う、占い師さんって、お前か、このストーカー女!!」
「えー、犯人2名につぐ。今すぐ人質を解放し、とっとと出てきなさい!」
オカ研の窓からは警察の叫ぶ声が妙に空々しく響いて聞こえたのだった。
彼女と一緒にオカ研で相性を占ってもらったら、死相が出てると言われたのでスカートをめくってみた。 小糸味醂 @koito-mirin
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