第16話 国会前で
翌日は快晴。まさにハレ日。祭日はこの団地も、ローアーエリアも浮足立っているように感じる。いつもは弟たちに蹴られようが、乗っかられようが、熟睡出来るのに、珍しく光はよく眠れなかった。今も航と尊の足が乗っかっている。その足をそっと下ろして光は布団を出た。
母は普段と変わらず、台所に立ち朝食を作っている。
「おはよう」光が声をかける。
「あら、おはよう。休みにしては早いのね。何かあるの?」包丁の手を止めて、光へ顔を向ける母、真理子。
「うん、何処へ行くと思う?」
「さぁね、また秀人達と上級へ遊びに行くんでしょう」また包丁を動かし始めた。
「まぁ、確かに上級だけど、上級のどこだと思う?」光は父の椅子に腰掛けながら問いかける。
「あなた達の行くところに興味なし!詮索も無し。あなたの責任感に任せる。以上」微笑みながら母が言い放つ。母は子供達を基本的に対等に見做している。放任ではなく、責任を与え、責任を取らせる方針だ。だから他人には冷たく見えるときもあるが、子供達も自立心が湧き、心地よい。
「国会だよ」
「へぇー、国会。秀人達と?」やっぱり興味を持った。手を止めて光へ向き直る。
「いや、違うんだ。昨日話した、拾った校章の持ち主に返しに行くんだよ」
「あー、話してたね。で、何で国会?」
「マップを見たら、ちょうどその子の家とここの中間位だったんだよ」
「その子?」母が怪訝そうに聞いてきた。
「あっ、うん……」返答に詰まる光。
「何照れてんの、バッカじゃない」と母はまな板に向かう。
「照れてなんかいないよ!もう」と赤面しながら光は居間のテーブルへ向かった。そこへ母が朝食を運んできて、
「光ももう恋の一つでもしなさいよ」
「恋なんかじゃないよ!って言うか、じゃあ母さんも恋の一つでもしなよ」とまた台所へ向かう母の背中に言った。母は一瞬止まって、
「バーカ」とそのまま朝食の味噌汁を取りに行った。
波留もまんじりとせずに朝を迎えた。上下黒のスウェットで階下のダイニングへ降りていく。まず誠司が居ないことに安堵した。
「お父さんはゴルフよ」母がダイニングテーブルの椅子に座り、のんびりとコーヒーを飲んでいる。普段あまり見られない姿だ。
「いいよ、あんな奴の動向なんてどうでも」波留は眉間に皺を寄せて言った。
「そんな風に言わないの」母は微笑みながら窘めた。
「もう、お母さん!いい加減にしなよ。優し過ぎだよ、誰にでも」
「ごめんね……」母は波瑠から目線を外し、伏し目になった。
「もう、謝らないでよ!なんでそんなに卑屈なの」波瑠は母の隣に腰掛けた。
「お母さん、私は貧しくてもお母さんと一緒ならいいんだよ――あんな男に傅かないでもいいんだよ」優しく母の顔を覗き込むように語りかけた。
「ありがとう、波瑠――だけどね、別にお父さんに傅いているつもりはないのよ……誠司さんも良い人なのよ」悦子は他愛のない言い訳で茶を濁した。波瑠に良い教育を受けさせたくて、現在の環境を選んでいるということは言わずに。それを言えば波瑠のせいにしているようだから。
「何が良い人よ!お母さんは何もわかってないんだから!」つい誠司の事となると感情的になってしまう。「ごめんなさい……」俯き謝る。
「いいのよ、それより、出かけるんでしょ。朝ごはんをもってくるわね」母はキッチンへ向かった。「ところでどこへ行くの?」
「国会」
「国会?って、波瑠は政治に興味あったっけ?」
「せ・い・じ、って言葉はダメみたい。アハハ」とおどけてみせた。
「アハハ。そうなんだね」母も笑った。「だけど何故?一人で?」バケットを持ってきながら母が聞く。
「ほら、昨日落とした校章を受け取りに行くの」
「あっ、そうか!気をつけてよ」母が不安気に波瑠の顔を見る。
「大丈夫よ!男以上に男っぽい私だよ」波瑠は笑顔で答える。
「そうね。だから彼氏もできないのかな?」と今度は母が波瑠をからかう。
「いいの!彼氏なんかいなくても」
光は国会議事堂の前にいた。時刻は9時30分。ネイビーのハーフパンツにめったに着ないグレーのポロシャツ姿だ。ちょっと金髪には似合わない感はするが、光のちょっとしたよそ行き姿だ。
天気は快晴。雲ひとつない。まだ少し暑いので、涼みも兼ねて国会正門前の憲政記念公園へ入る。祭日の朝のせいかもう親子連れが二、三組と老人が何人か歩いていたり、池の周りのベンチに腰掛けている。光も木立で日陰になるベンチを見つけて、そこに約束の10分前まで居ようと思った。
その時波留は、地下鉄の階段を駆け上がっていた。地上に出て、スマホの地図アプリで経路を確認する。思いのほか国会正門前までは距離がある。白のTシャツに汗がにじむ。普段はそんな事に気を使わないが、下着が透けるのではないかと気が気じゃない。タイト目のブラックジーンズの中も汗を感じる。いつものように高めにまとめたポニーテールの黒髪が、汗と日差しで光っている。 地図アプリで確認すると、走ればギリギリ間に合う距離だ。波瑠は意を決して走り出した。
その時光は公園を出て、国会の前へ来ていた。さすがに真ん前は警備のための警察官が直立していて気まずいので、道路を隔てた交差点の角で待っていた。
すると右手の方から波瑠が走ってくるのが見えた。光はそちらに向き直って左手を挙げ手を振った。時間は10時1分前。
「そんなに急がなくても良かったのに」光が気を使う。
「そうはいきませんよ――ハァハァ――わざわざ持ってきて頂いたんですから――ハァハァ――」波瑠は息を切らしながら伝えた。そう言いながら、下着が透けていないか確かめて、少しTシャツを両手で前へ引張り浮かせた。そしてこれも柄ではないが、可愛らしいポーチからハンカチを出して、首筋や顔の汗を拭った。
初めて間近に光は波瑠を見た。眉毛が黒く少し太めでしっかりとしている、――メイクで描いていないのかな―― そんな眉の黒と同じくらいコントラストのある赤い唇に、そのコントラストを緩衝するような淡い茶色の大きな目。綺麗だ。光は波瑠のように走ってもいないのに、心臓が高鳴るのを覚えた。
「あっ、これ――」光はハーフパンツの左ポケットから、波瑠が落とした校章を取りだした。
「あっ、ありがとうございます――」波瑠が手に取る。「怖いですよね、これで監視されているようなものですものね」校章を表、裏と返しながら言った。
「そうですよね。僕たちの校章もそうみたいです」
「このまま捨てたい気分だけど、それはそれで面倒くさくなるから」波瑠は校章をポシェットに収めた。
「可愛いですね」光も柄にもなく波瑠のポシェットを褒めた。
「あー、これですか。これは母のなんです。私ってあまりファッションとかに興味ないし。ましてやこんなブランド物なんて嫌いなんですけど、適当なものがなくて――母のを持って来ちゃったんです」とグッチのポシェットを見ながらバツが悪そうに告げた。ここで会話が途切れた。二人共らしくなく、ぎこちない。まず先に開口したのは光だった。
「あのー、この後って、予定とかあり――ますか」波瑠のポシェットを見ながら聞いた。
「いえ、別に――無いです」波瑠は光の足元のスニーカーを見ながら応えた。
「もしよかったら、喉も乾いたし、お茶でもしませんか」波瑠の目を見ては伏せて聞いた。
「はい。いいですよ」波瑠は快諾した。
「って、のどが渇いてるのは俺だけかな。アハ」
「私もカラカラですよ」
「だけどこの辺りはなにもないんですよ」自分で言っておいて気がついた光。
「お詳しいんですね」波瑠が微笑みながら言った。
「詳しいってほどでもないんですけど……少し歩いてもいいですか?」
「はい、いいですよ。体動かすの好きですから」
「じゃあ、こっちへ――」光は皇居方面へ足を踏み出した。光は学校の中ではモテる方だ。秀人にはかなわないが。しかし秀人とは別の意味合いで、ちゃんと女子と付き合ったことがない。部活や家の手伝いに忙しいのもあるが、秀人、心、綾と遊んでいる方が楽しかったし、そこまで好きになれる子がいなかった。だからこんな状況は初めてだ。光は車道側を歩く。
「そうそう!そういえば、なんで国会前だったんですか」波瑠が高いテンションで光へ顔を向けて聞いてきた。
「あー、それですか――ですよね――ちょうどお互いの中間くらいだったって言うのもありますけど――思い出があるし――好きな場所なんです」照れながら、自分の足元を見て答える。
「思い出――ですか?」波瑠が光の顔を少し覗き込むように訪ねた。
「はい、初めて会った人に言っていいのか分からないんですけど――僕――政治が好きなんです――」と言って、波瑠の顔を伺った。「――引きますよね?」
「えっ!なんでですか?」大きく茶色い波瑠の目が大きな点となって聞いてきた。
「だって政治ですよ、政治」光も波瑠の反応に驚いて、瞬発的に発した。
「はい、大事じゃないですか!私も普通に興味ありますよ!」
「えっ!そうですか!それ、嬉しい!」光は立ち止まって波瑠に向き直った。
「なんだか政治ってなると、まるでタブーみたいなところがあるじゃないですか。あれ、おかしいと思うんです。政治はあらゆるものに絡んでくるから、注視しないといけないと思うんです」これは波瑠の言葉だ。
「そうですよね!そうですよね!僕も日頃からそう思ってて、なるべく言おうと思っているんです――だけど、こんなに早く話したのは初めてです」興奮して波瑠の目を見て話していたが、最後はまた照れて地面に視線を移した。「僕の両親が大学で政経を専攻していて、二人共リベラルな考えで、ボランティアで出会ったんです――それに父方の祖父も学生紛争の真っ只中で活動していたし――いわば血筋みたいなものなんです――両親はそんなじいちゃんをヒーローみたいに、俺の小さいときから話してて、多分相当盛っていたと思うんだけど、いつの間にか洗脳されたのか、俺の中でもヒーローになってて。両親は両親で、毎日二人で夕食の時なんかに、その日の政治ニュースをつまみにして、ビールなんか飲みながら侃々諤々して、そこに俺たち子供――あっ、三人兄弟なんだけどね――の誰かを無理やり味方につけようとして、アハハ――みんな何のことだかわからないから、うまい具合に言いくるめられて、今度は兄弟間で侃々諤々になっちゃって、アハハ。だけど最後は喧嘩することなく、笑って終わりになったりして――そんなことをしているというか、されているうちに政治に興味を持つようになって。それで……」光は話に夢中になると、相手に構わず自分の世界に入ってしまう癖がある。それに気がついて慌てて立ち止まり、波瑠の顔を今度は冷や汗を流しながら覗いた。すると波瑠は予想外に、憧れるような顔で光の顔を見返していた。
「あっ、えー、っと。ごめんなさい。喋りすぎました」光は恐縮する。
「えー!そんなことないですよ!羨ましいです――そういうご家族――うちの家はそういう感じじゃないから……」波瑠の声はだんだん小さくなり、それとともに顔も伏せていった。「あっ、ごめんなさい。暗くなりそう、アハハ」愛想笑いになってしまった。慌てて話題を変える。「だけど、最近おかしいですよね――国全体もそうですけど――私達高校生の周りも変じゃないですか?」
「確かにそうですよね。国や学校の監視は厳しくなるし、僕たち下級と波瑠さん達上級との間も問題が出てきてるし」
「私達上級の間でも最近は争いごとがあるんですよ――なんだか皆が窮屈感や閉塞感みたいなもので、ストレスを抱えていて、それの八つ当たりをしているようなところがあると思う――昨日のお友達のこととか――そういえば、お友達、大丈夫でしたか?」
「はい。秀人ですね。大丈夫ですよ。あの時は助けてくれてありがとうございました。あいつはあれくらいの事平気ですよ――それにしても頼もしい友達ですね」光はデイヴィッドとオルティスが気になったようだ。
「えぇ、頼りになる友達なんですよ」波瑠は自慢気に言った。
「どちらかが彼氏さんだったりして?なんて」光はつい気になって聞いてしまった。
「アハハ、そんなんじゃないですよ。彼氏にはなれない人たちなんです……光さんも政治好きをカミングアウトしてくれたから、私も言っちゃおうかな……彼たちはゲイなんです」波瑠は「ゲイ」と言った時に光の目をしっかりと見て伝えた。
「そうなんですか!うちのあの秀人もそうですよ!あっ、でも、僕は違いますからね」慌てて波瑠に向き直り、左手を目の前で左右に振った。
「アハハ、そんなに強く否定しなくてもいいですよ――だけど以外で、嬉しい共通点ですね」安堵と親近感がある笑顔で応えた。
「秀人に加えて、まだ二人個性的な仲間が居るんです――大切な友達だから、隠さず紹介しちゃいますね――レズビアンの綾とバイセクシュアルの心っていう女子が居るんです――」光も何の蟠りもなく言った。「LGBTQのオンパレードでしょ、ワハハ」快活に笑う。
「素敵ですね――光さん」波留が尊敬の眼差しで見てきた。
「そんな、素敵だなんて。ひどい奴らですよ――ズケズケものは言うし、ケツは触ってくるし、変に誤解するような事を言うし――奴らはデリカシーっていうものがないんですよ、ワハハ」
「お友達の事を話しているときの光さん――楽しそう……だけど私も負けてませんよ――」波留は挑むような顔つきで言った。「二人共正反対の性格で、デヴィッドは冷静で紳士的。オルティスは陽気で野性的。いつも二人なりに気を使ってくれるんです」
「外国の人だったんですね。後ろ姿しか見れなかったから、分からなかった――だけど彼らマイノリティの子たちって、差別とか嫌がらせとか、小さい時から経験しているから、人の痛みとかに敏感だよね」
「うん、確かに。だから兄弟みたいな感じがする――私は一人っ子だけど」二人はメ口になってきた。
「そうなんだ。しっかりしてるから下の兄弟でもいるかと思った」
「しっかりなんかしてませんよ。わがままで自由奔放なんですよ」しっかりしてると言われて、少し照れながら答えた。「そういえば、国会に思い出があるって言ってたけど、どういう思い出があるんですか?」波留は思い出したように聞いた。
「あー、思い出って言うか――デモなんだ」
「デモ?」
「そう。現政権の汚職問題から、自衛権、監視関係の法案への反対のデモで何回か来てるんだよ」
「そうなんだ!言葉だけじゃなくて、行動もしてるのね。私の周りにはそんな人いないわ」
「そうだろうね。俺の周りにもいない。たかがデモ、あんなことしたって変わらない、自己満足だ、なんてよく言われるけど、海外の民主主義の国では普通の行為なんだよ。選挙なんかすぐにやれるもんじゃないし、手軽に直ぐ意思表明が出来る手段なんだ。海外ではデモで政変することもあるからね。そこまでいかなくても、政権に圧力をかけたりはできると思う――だけど日本はまだまだだめだよ――全然参加者が少ない――まあ、確かに日本のデモは雰囲気も良くない。年配者ばかりだし、怒声やシュプレヒコールがちょっと怖い感じもするからね――だけど波留さんが言ったように、今の世の中は変だと感じてる人は多いと思う。だから今こそ政治を話すこと、行動することが大事なんだよ!年齢性別に関係なくね……って、また喋り過ぎちゃった」波留は政治の事を夢中で話している光の横顔が、逆光で輝いている光の金髪よりも輝いて見えていた。
「今度デモ参加させて下さい!」波瑠は光を見て右手を挙げた。
「えっ!?」驚く光。
「あっ、ごめんなさい――思い立ったらすぐ行動したくなっちゃうんです」波瑠はにかんだ。
「もちろん!嬉しい!だけどデモは別に僕が許可するもんじゃないから――あくまで自分の意志で参加すればいいんだ」
「そうね。参加させて下さい、っておかしいものね」と顔を赤らめた。素直で大胆で繊細な子なんだなと光は感じた。
「だけど、波瑠さんがデモなんかに行くってことを、ご両親が知ったら、驚いて止めるかもよ」いたずらっぽく聞いてみた。
「もちろん言いませんよ。あんなくそつ――あー、親には内緒ですよ~」波瑠はなんとかごまかした。
「そうだよね。うちは親が政治好きだからいいけど、普通の家庭じゃ、違うんだろうな……ところで波瑠さんのはご両親ってどういう感じなの?」
「うーん……光さんちのように明るい家庭ではないことは確かかな、アハハ」無理矢理に波瑠は笑った。光は察してそれ以上は聞かない。代わりに、
「さっきうちは夫婦で侃々諤々って言ったけど、それは昔のことで、父親は五年前に亡くなったんだ。だから今は夫婦では政治討論はないんだよ。アハハ」
「えっ!そうなの!私のお父さんも五年前に亡くなったの」またの奇遇に波瑠は驚いた。
「うちの親父は進行性のがん」
「うちの父はスカイツリーテロで」
「あっ、あの――テロ……」光は唖然とした。実際の犠牲者の関係者に会うのは波瑠が初めてだった。
「そんなに驚かないで。お互い父の死に変わりはないわ」
「そうだけど……じゃあお互い今は母子家庭だね」
「う、ううん。だけど……」ここで波瑠のスマホの呼び出し音が鳴った。「ちょっとごめんね」波瑠は立ち止まりスマホを取り出す。二人は皇居まで辿り着いていた。祭日なのでランナーが多く、ガードレールに寄り添って画面を確認すると、母からの電話だった。「母からだわ。ちょっとでていいかな?」
「もちろん」光が促す。
「もしもし……うん、もう!?」波瑠はガクッと肩を落とした。「うん……わかった……それじゃ」電話を切って、ポシェットにしまった。「ごめんなさい。もう帰らないと」沈んだ声で光に告げる。
「いいよ、いいよ、渡したらすぐに帰るつもりだったから、ここまで一緒に入れて楽しかったよ」光は明るく声を張って答えた。
「また、会ってくれますか? 」波瑠が上目遣いで聞く。光はドギっとしながらも、
「もちろん!喜んで」
「お互いの友達も一緒に遊びましょ」このときの波瑠はもう明るかった。
「そうだね」光も満面の笑みで答える。
「それじゃ、失礼します。今日は本当にありがとう」波瑠は光に頭を下げた。
「こちらこそ」と光も頭を下げる。波瑠は歩いてきた道を戻って行った。ポニーテールの黒、Tシャツの白、ブラックジーンズの黒のモノクロームが多彩な波瑠の心の中をカモフラージュしているようだった。
光に背を向けて帰路につく波瑠の顔は悔しさが滲んでいた。電話は母からだったが、母に電話をさせたのは誠司だ。絶対に。仕事中の誠司はしないだろうが、休みだからそうしたのだろう。束縛もあいつの喜びなのか。母は逆らえないし、波瑠が言うことを聞かなければ、母も辛くなると思い、仕方なく帰ることにしたのだ。
光は夢見心地だった。なぜかすれ違うランナーが光を必要以上に避けて走り抜けている感じがする。それもそのはず、光はニヤニヤと笑っていたのだ。まるで爆発したような金髪をもった男が、日中に皇居をニヤついて歩いていたら、それはランナーも引くことだろう。
しかし、どうしようも抑えられない。体の奥深くから湧き出て来るような感覚だ。これから先のことを、あれやこれやと想像しては、ランナーたちと逆行しながらニヤつきあるき続け、緊張と話し過ぎのせいで喉がカラカラで、皇居のお堀の水を全部飲み干せるのではと思いながら光も帰路についた。
誰のためでなく 僕らのために 行方不命 @ryo-u2020
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