第19話 貝底国
ロッテルダム漁村。
一行は漁村につくなり、網元の屋敷に案内される。
そこでは、ピンク色の髪をした美少女が保護されていた。その頭には、貝殻がついている。
そしてその胸は、小さな体に反して立派にふくらんでいた。
「えっと……はじめまして。私はヴァルハラ領の領主、エリザベスと申します」
エリザベスが自己紹介すると、少女は喜びの表情を浮かべた。
「まちがいない。そのきれいな聖なる光は伝説の聖女さま。おねがい!お爺ちゃんを助けて!」
少女は涙を流して、エリザベスにすがりついた。
「ち、ちょっと落ち着いて。詳しい事情を聞かせてもらえるかな」
エリサベスが優しく聞くと、少女はしゃくりあげながら話し始めた。
「私の名前はアヤコ。海底の民、貝殻人の姫なの」
アヤコが語った内容は、驚くべきことだった。
「400年前、魔族の人手鬼がせめてきたの」
毒をもつ人型のヒトデに襲われ、貝底国は大混乱に陥る。ついには貝底国そのものであるゴッドシェルの体内にまで侵入し、内臓を食いあらそうとした。
困った貝殻人たちは、当時魔王と戦っていた勇者たちに討伐を依頼。仲間を連れた勇者は激しい戦いの末、ついに人手鬼たちを全滅させたという。
しかし、ゴッドシェルはその時負った傷のせいで殻を閉じて深い休憩に入り、貝殻人たちと地上人たちの交流も途絶えた。
そして今から50年前、突然ゴッドシェルが苦しみはじめ、「石化霧』を噴きだした。
貝殻人たちは協力してシールドを張る事で霧が世界に拡散することを防いだが、その威力は年々強力になり、もはや抑えることができなくなったという。
「ゴッドシェルのお爺ちゃんは、どんどん弱っていって、みんなが手をつくしたけど、今にも死にそうなの。そんな時、勇者様の従者である聖女様の話を読んで、藁にもすがる思いで会いにきたの。おねがい!私たちを助けて!」
涙をうるうるしながら頼み込んでくる少女に、エリザベスはすっかり同情してしまった。
「かわいそう。わかったわ!すぐに行って……いたっ!」
安請け合いするエリサベスの脳天に、サクセスのチョップが炸裂する。
「簡単に話を決めるな。仮にその話を受けたところで、俺たちに何のメリットがあるんだ」
サクセスは冷たい顔で、アヤコをにらむ。
「メリット?何それ?」
アヤコはよくわかってないみたいで、首をかしげた。
「だから、何らかの金や利益を提供しろ。エリザベスの治癒魔法を利用したいんなら、当然その対価を払うべきだろう」
欲深く要求するサクセスに、エリサベスが憤慨した。
「ち、ちょっとサクセス。こんな小さな子にそんなことを言っても」
「よく考えてみろ。こいつが言った「世界の危機」とは、ゴッドシェルが死んだら住む場所がなくなる貝殻人の世界のことだ。俺たち地上人には関係ない」
サクセスは、冷たく切って捨てる。
「むしろ、ゴッドシェルが死んだほうが『石化霧』が無くなって、また海上貿易ができるようになるかもしれないな。メリットとデメリットを考えたら、放置したほうが……」
利己主義に走って冷たく見捨てようとするサクセスだったが、次の言葉を聴いて考えを改めた。
「残念だけど、お爺ちゃんが死んでも『石化霧』は無くならない。むしろ魔力が暴走して『石化霧』が拡散され、全世界に広がっちゃうの」
「なんて迷惑な……」
自分たちに関係ない話だと思っていたが、そうではないことを知ってサクセスは顔をしかめる。
「わかったよ。だけど想定外の事態に備えて、準備だけはさせてもらうぞ」
しぶしぶゴッドシェルの治療を請け負うサクセスだった。
数日後
準備を整え、エリサベス一行はアヤコの『宝貝船』に乗り込む
「うわぁ。綺麗な船ね。でも、狭くないかな?」
その船は見た目はただの大きな貝殻で、二人も乗れば身動きがとれなくなりそうだった。
「心配ないの。『拡張』」
アヤコが魔力をこめると、船の内部が外殻を無視して広がっていく。あっというまに巨大船並の容積になった。
「これはすごいな」
「当然なの。貝殻人は魔法に優れているの。伝説の勇者様や聖女様も、貝底国で魔法を学んだといわれているの。私は空間魔法の使い手なの」
胸を張っていばるアヤコを見て、サクセスは腹の中で考えていた。
(これは、美味しい話だったかもな。確かに貝殻人は今では地上では失われている魔法技術を持っていると伝説にある。直接的な利益が得られなくとも、技術や知識を教えてもらえば……)
そんなことを考えている間に、宝貝船は水中を進んでいく。
アトルチス海の沖、深い深い海の底にもぐっていくと、やがて小山のように巨大なシャコガイが見えてきた。
「あれは?」
「おじいちゃんの外殻。私たち貝底国なの」
その外殻は金属質な光をたたえ、底の部分からボコボコと黒い泡が発生している。
「あれが『石化霧』の発生源か」
「そう。触れないように気をつけるの」
宝貝船は泡をさけながら、シャコガイの裂け目に入っていった。
貝底国
巨大なシャコガイの内側に、その国はあった。
宝貝船が港に着くと、槍をもった兵士たちに囲まれる。彼らは全員変な兜のようなものを被っていた。
「アヤコ姫様。どこにいっていたんですか!陛下は心配されていたのですよ!」
「聖女様をつれてきたの」
何か弁解するアヤコを確保すると、兵士たちは槍を向けてきた。
「侵入者め。おとなしくしろ。我らは忠実なる槍貝兵」
「待って!」
アヤコは兵士を押しとどめ、一人ずつ紹介する。
「彼が勇者」
「へ?俺っちが?」
指差されたガラハツトは、目を白黒させていた。
「彼女が戦士」
「私はただの騎士なのですが……」
そういいながらも、エレルはちょっとうれしそうだった。
「荷物もち」
「俺は商人だ」
大きなリュックをかついだサクセスがむくれる。
「そして、彼女が聖女様」
「エリザベスと申します。よろしくお願いしますね」
エリザベスは聖なる美しい光を放って、にっこりと笑う。
彼らを胡散臭そうな目で見ていた兵士たちだったが、最後の少女を紹介されて態度を改めた。
「おお。なんと美しい光だ。われらが救世主様!」
エリザベスたちは兵士たちに連れられて、王宮に行くのだった。
ヤドカリ車の外から見る町の景色は、普通の中世ヨーロッパのような町並みが広がっていた。
道を歩く人々も、体の一部に貝殻がついているだけで、あまり人間とは変わらない。彼らは『貝殻人(シェルター)』という種族だった。
「イキのいい魚が手に入ったよ。早い者勝ちだ!」
「俺に売ってくれ!」
町には魚屋があり、漁師たちが釣ってきた魚が売られていた。
彼らが魚と引き換えに差し出しているのは、白い石である。
「あれは何だ?」
「骨貨という。私たちの国の通貨なの」
アヤコの説明によれば、たまに川に流されて溺れ死んだ魔物が沖にまで流される。貝底国ではその肉が大人気で、骨は貴重品として通貨になっているとのことだった。
「まさか骨が金になっているとはな。面白い」
ところ代われば貴重品の種類も変わる。サクセスは改めて異種族間の価値観の違いを感じるのだった。
家畜化されたヤドカリが引く車は、豪華なサンゴでできた王宮に着く。
エリサベスたちは勇者一行として歓迎され、すぐに王との謁見が開始された。
「聖女殿、勇者殿、戦士殿。よくぞこられた。ワシは貝底王ホタテ三世じゃ」
ホタテ貝のような兜を被った老人が、威厳たっぷりに豪華に玉座にすわる。珊瑚でできたその玉座は、キラキラと輝いていた。他にも職台や装飾品は金銀で飾られていて、豪華なイメージをかもしだしている。
エリザベス、ガラハット、エレルの三人は慌てて跪く。その少し後ろでサクセスも平伏しながら、冷静に貝底国を分析していた。
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