第3話

今日も気がつくと朝を迎えていた。


 昨日まで酷使していた身体は今日も悲鳴をあげているが、それでも男は作業へ

向かう。男の当面の目標は、右も左もわからないここでの生活を何とか知ろうとする事だった。昨日よりもズシリと重く手にぶら下がるバケツを携えながら、スコップ男のところへ足を運んでいく。

 

今日は仕事をこなしながら、他の男たちの顔を区別できるようにする必要がある。きっとこの生活にはリーダーと呼ばれる存在がいて、その指示に従っているの

だろう。リーダーを見つけることが、ここでの生活を知るためには不可欠なのだ。

男はそう確信した。


 今の所スコップ男しか関わりを持てていない。不要な土をよそへ捨てるという

仕事柄、他の男たちへの接触は難しいのでは無いだろうか。

 いや、そんなことはないだろう。どんな仕事でも足元に土砂は溜まっていく。

今度はよく足元を観察し、一番溜まっていそうな男の元へ行こう。

そう決意し、他の男たちの足元を注視するが、不思議なことにスコップ男以外の足元にはあまり土砂が溜まっていないように見えた。

 観察をしていると、スコップ男の手が止まった。一体どうしたのだろう。

スコップ男の視線を追うと、どうやら彼の足元の土砂に向いているようだ。

しまった。男はあわててバケツをスコップ男の元へ持っていく。バケツを視界の

端に入れたスコップ男は、ようやく足元の土を掘るため動き出した。バケツへ

流し入れる動作が、昨日よりも雑に感じた。

 

今日もまたこの作業が始まるのかと、男はため息をつきながらバケツの土砂を

道の脇に捨てた。男の身長にかかるくらいの山が二十ほど出来た頃、またしても

ブザーが鳴り響いた。


 全身を引き裂かれるような痛みを感じながらも、終わった安堵がじんわりと男の

身体に沁み渡る。スコップ男がこちらを見て無愛想のまま小さく親指を立てた。

 なんだ、仕事が終わると普通じゃないか。

気を失う直前に見た景色は、男が初めて入社した頃の会社の雰囲気によく似ていた。



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