第2話

 気がつくと、また男達は作業を続けていた。


 すっかり眠っていたのか、昨日まで感じていた身体の痛みは無い。

しかし、男の服装は昨日と異なっていた。昨日まで来ていたスーツが、いつの間にか作業中の男たちのような格好になっていた。

そばにはバケツがあった、これで手伝えというのか。何もわからないまま、

とりあえずバケツを手に持って男たちへ近寄る。

 

 スコップを持った男がこちらをちらりと見ると、突然足元の土をこちらめがけて

飛ばしてきた。一体何をするんだ、と叫びかけたが、思いとどまって考えてみる。きっとこの土をどこかに捨ててこいという事なのか。

 恐る恐るバケツを先ほどの男のそばに持っていく。スコップの男は新入りである

男の顔を確認し、それからバケツに視線を落とすと、再び足元にあった土を掬い、

バケツへと流し込んだ。やはりこれで正しかったのだ。

 スコップ男の意図を読み取れた嬉しさが男の動力源となり、どんどん捨てては、

どんどん流し込んでもらった。

 

 それから何時間経ったのだろうか、先ほどの喜びはすでに摩耗され、

楽しかったはずの仕事は今ではただのルーティンとなるばかりであった。

 男の腕も足も、どんどんただの肉と骨の棒となってしまってきた。しかしそれでも男たちは作業を止めようとはしなかった。

 ただひたすらに、炭鉱を掘り進めていくだけであった。

 

 この仕事は一体何のためにやっているのか、そんな事は始めたばかりの男には

分かるはずも無かった、もしかしたら今作業をしている者たちも分かっていない

のかもしれない。

 一体何を掘っていて、どこへ穴をつなげて、何を掘り出そうとしているのすら

知らないのだろう。

 きっと男たちは怖いのだ、この作業を続けている終着点を知るのが。

もし終着点を知り、もしそれが見つかってしまえば、男たちの仕事は終わって

しまうのだから。

 その事実から目を背けるように、ひたすら男たちは作業を続けているのだ。

終わりの見えない作業を。

 そう考えていると、またあのけたたましいブザーが鳴った。作業終了の知らせだ。

男はもう動くことが出来ずに、その場に倒れこむばかりであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る