埋もれた世界

鍵谷 理文

第1話

 気がつくと、男は炭鉱の中にいた。


 炭鉱かどうかは、周りにいた男たちの格好で判断した。おおよそフィクションで

よく見るような、タンクトップで土埃に塗れていたからである。

男たちが作業を黙々と続けている間、男はただ視線を動かすのみだった。

今にも落ちてきそうな土の天井をただひたすら見つめては、時折ふと視線を

横にずらす。

 そこには他に男たちが数人いた。皆こちらに脇目も振らずにただひたすら

掘り進めていた。彼らは一体何を掘っているのだろうか。


 男は身体を起こそうとするが、鈍い痛みが背中から脳髄へじわじわと貫くのを

感じていた。パニックになり、声も出せない。

ひとまず気を落ち着かせようと、男は焦りながらも深い深呼吸を行う。土煙が

肺に入っていくのを感じ、思わずむせてしまった。

大分長い間咳が続いたが、やはり男たちはこちらを見ようともしない。


 男は乱れた呼吸をゆっくり整えて、それからしばらくは中空を眺めるばかりで

あった。泥で汚れたスーツの事をすっかり忘れ、何度かのまどろみが男を襲った

直後、ブザーが鳴った。その音は炭鉱をけたたましく震わせ、作業中の男達の手を

止めた。

先ほどまでこの炭鉱内に張り詰めていたピンとした空気は、いつの間にか消え去っていた。


 茶色くなったタンクトップにスコップを携えた男が男と目が合い、立ち止まるのが見えた。ああ、ようやく見つけてもらえた。

 

男は安心すると、再び目を閉じた。

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