第22話

「今日はありがとうございました」


 午後十時を回り、俺はバイトの正装から制服に着替えた。


「お疲れ様。気を付けてね」

「はい」


 そして踵を返した時だった。


「上技くん」

「はい?」


 坂石さんに呼び止められた。


「バイト、辞める?」

「…………」

「無理は良くないから」

「辞めないですよ、多分」

「そう。じゃあまた」

「はい」


 俺はスタッフ用の裏口から店を出た。

 そして丁度その裏口の真横。店の壁にもたれかかっている人影が一つ。


「成海?」

「あ………」

「………何やってんだ?」

「………待ってた」

「あっそ」


 俺はそのまま歩き出す。

 俺としても詳しい話を聞きたいと思う反面、どうも胸糞が悪かったのだ。


「一斗!」

「ん?」

「あ、あの………ごめん」

「何が?」

「信也たちが」

「お前は悪くないってか?」

「ち、違う………ううん。違わないけど」

「どっちなんだよ」

「ごめん」

「………はあ」


 俺は再び歩き出す。


「い、一斗?」

「いや、いつまでもここにいても寒いし、とりあえず歩く」

「う、うん」


 季節は六月。日中は暑い日もあるが夜はやっぱり冷え込む。


「成海さ、嫌なら声かけてこなくてよかっただろ」


 俺が言うと、


「嫌じゃない」

「でも信也って奴、嫌みたいなこと言ってなかったか?」

「それは………」


 暫く黙り込んでから、


「信也、私のこと好きみたいだから」

「あー」


 面倒くさい。

 それって単なる嫉妬じゃねえか。というかそれに協力する周囲って………これだから集団は。


「はあ…………」


 ため息が漏れる。

「本当にごめん。私がハッキリ言うべきだった」

「………謝られてもな」

「許さない?」

「いや、そういうわけじゃなくて、どうしようも無いんだよ。だって成海、自分から言えないだろ?俺と一緒にいることについて」

「う、うん…………」


「あーもう。いつまでもダラダラ聞いていてこれなの?」


 振り返ると楓がいた。


「楓?」

「楓さん?」


 楓は俺に見向きもせず成海と対峙する。


「一斗くんは優しいから」

「楓?」


 唐突に話し出す。


「成海さん。いつまでもその優しさに甘えちゃダメだよ」

「………っ」

「一斗くんが今許しても成海さんは何も変わろうとしないよね?きっと今まで通りさっきの人たちと一緒にいるよね?それで一斗くんが辛い思いをしないと思ったら大間違いだよ」

「か、楓」

「一斗くんは黙ってようか」

「は、はい」

「自分が変わろうとしないで、一斗くんが変わってくれるんじゃないかって思ってる?」

「………あ」


 俺の口から漏れた声だった。いつか言われた。『変わろうとしないのか』と。


「珍しく怒ってるよ、私も」


 楓が言う。

「もう少し考えで見るべきだよ、成海さん」


 楓にそう言われる成海は俯いていた。


「行こう、一斗くん」

「え…………あ」


 楓に腕を引かれる。

 そして徐々に成海の姿は見えなくなった。

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俺とお前は結末を知っている。~親愛なる未来の旦那と嫁へ~ 窯谷 @kakekake1125

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