第21話

「いやーいい気味だね」

「は、はあ」

「坂石さん………ありがとうございます」


 俺は頭を下げる。


「やば、何かに目覚めそう」

「それだけはやめてください」

「あはは。それにしてもよく耐えたね。偉いよ」

「は、はい」


 続けて俺は楓を見た。


「楓も、ありがとう」

「一斗くん。嫌なことはハッキリ嫌って言うべきなんじゃないのかな」

「あ、ああ………ごめん」


 楓は珍しく怒っているように見えた。

 だから俺は素直に謝っておく。


「べつに謝って欲しいわけじゃないんだけど………」

「………悪い」

「もう。調子狂うなー」

「………ああ」

「はあ………今日は早く帰ってきてね」

「分かった」


「おやおやー」


「「あ」」


 俺は気を落として、楓はうっかりか、つい普通に会話してしまった。

 当然それを坂石さんは聞き逃さなかっただろう。


「じゃあ私はこれで」


 楓は慌ててその場を去ろうとする。


「ちょっとちょっと」

「そう言えば坂石さん、生徒会長だったんですね」

「二人して誤魔化そうとしても無駄だからね?」

「「…………」」

「少し話さない?」


 坂石さんの提案で俺と楓は並ぶ形で横に座り、向かい側には坂石さんが座り、話し合うことになった。


「一応確認だけど二人は血がつながってるの?」

「はい」


 真っ先に答えたのは楓だった。


「上技楓といいます」

「楓さん………失礼ですが年齢は?」

「二十です」


 次いで俺のふくらはぎに痛み。

 コイツ抓ってやがる。

 まだ何も言ってないだろうが。というか態度にも出してないよな?


「上技くん?」

「あーはい。楓は従姉です。叔母が死んで一人暮らしすることになったので、近くに住んでいた楓のところに住まわせてもらってます」


 まあ、さらさらと嘘が言えるようになったこと。


「そうだったの………何だかごめんなさい」


 坂石さんは疑いの目を向けたことについてだろうか、それについて誤ってきた。


「いえ、べつに気にしないでください」


 実際は違うわけだし。


「そう?」

「はい。でも………あんまりこのことは………」

「分かってる。勿論誰にも言わないから」

「お願いします」

「それで、どうする?今日はもう上がってもいいけど」


 坂石さんと隣の楓の視線が俺に向けられる。


「いえ、最後までやっていきます」

「そう」

「じゃあ私、帰ってるね」

「ああ、ありがとう」

「どういたしまして。それじゃあね」


 そう言って楓は立ち上がり店を出て行き、それを俺は見送った。

 ほんの少しだけ、寂しいと感じてしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る