第19話

 俺がバイトしているこのファストフード店は、他のファストフード店よりも閉店時刻が平日だと少し早く、午後十時で終了だ。

 平日ということもあり九時以降はほとんど客の来店も無く、俺はホール(客席のことらしい)を掃除していた。


「いやー精が出るねー」


 そう言って坂石さんは片手に飲み物の入った紙コップを持って客席に腰掛けた。


「坂石さん、休憩してないで手伝って下さいよ」

「これも研修だぞ」

「そう言ったらどうにでもなると思ったら大間違いですよ」

「まあまあ、何なら上技くんも休んだら?」

「それは……」

「こういうのできるの私との時だけだと思うよ」

「…………」

「ほらほら」


 手招きされ俺は坂石さんの向かい側の椅子に腰かけた。

 しょうがない。だって俺も疲れてるし。


「これで同罪だね」

「今回だけですからね」

「分かってるって。…………それでさ、」


 坂石さんが頬杖を付いて、


「さっきの子、だれ?」


 そんなことを聞いてくる。


「さっきの子………」

「うん。さっきの何も買わないで帰った女の子」

「えっと…………」

「知り合い?」

「まあ、そうですね」

「随分仲良さそうだったけど、彼女さん?」

「いや………そんなのではないです」

「あ、そうなの?何だかバイトの話してなかった?」

「………よく聞いてましたね」

「耳良いんだー」

「は、はあ」

「それで、どうなの?」

「何がですか?」

「彼女じゃないのに親しそうだし、バイトをしてるのもあの子のため?」


 俺は暫く言葉に迷う。

 それから魔を開けて、


「関係は無いわけでもないです」

「えっと、つまりあるってこと?」

「まあ多少は」

「へ~」

「でもそれ以上は答えませんよ?」

「うん、分かったよ」


 意外にも聞き訳が良くて逆に俺が驚いた。

 すると坂石さんがそれを読み取ったのか言う。


「もっと言及してくると思った?」

「ま、まあ」

「あはは。だってこれ以上言っても私に関係ないでしょ?」


 なんだ?もっと好奇心とか本能で動くタイプの人だと思っていたけど、意外とさばさばしているところがあるんだな。


「そう言えば先輩はどうしてバイトしているんですか?」

「私?」

「はい」

「んーやっぱりお金が欲しいからね」

「そんなことは分かってますよ。聞きたいのは何でお金が必要かです」

「結構深いところまで聞いてくるね」


 坂石さんはニヤリと笑う。


「俺も少し話したんです。これくらいじゃなきゃフェアじゃありません」

「あははは、確かにそうかも」


 二人だけの店内、坂石さんの笑い声が響いた。

 坂石さんは「面白いなあ」と言ってから俺を見て話す。


「進路のためだよ」

「進路、ですか?」

「そう。私県外の大学目指してるんだけど、それだとお金結構かかるでしょ?」


 坂石さんは高校三年生。確かに進路はもうそろそろ考えてないといけないはずだけど…………。


「何だか意外です」

「意外?」

「はい。しっかりと目標を持っているんだなと」

「まあね。こう見えても頭いいんだよ?」

「へー」

「あ、今度期末の勉強教えてあげよっか?」

「いえ、それは間に合ってます」


 楓がいるからな。


「あはは。上技くんも中々不思議な性格してるよね」

「俺ですか?」

「うん。普通こんな綺麗な先輩の提案断る?」

「自分で綺麗って言うんですね………」

「ほら、そう言うところ」

「へ?」

「誰にでも普通に接するところだよ。私じゃどうしてもできないことだな~」

「は、はあ」


 何だかピンとこないけど。


「でもまあ、いいところだと思うよ。私は」

「あ、ありがとうございます?」

「どういたしまして………ってもうこんな時間!」


 時計を見ると時刻はもうすぐで十時を回るところだった。


「早く片付けないと店長に怒られる!」

「自業自得ですよ」

「そうなれば同罪だよ?」

「急いで片付けましょう」

「あはは、そうだね」


 これでクビになるのだけはごめんだ!!

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