第18話
バイトを始めて早二週間が経過した。
今までバイトの経験はあったが、ファストフード店は初めてで少々戸惑うところがあった。
だがまあ、先輩の指導のもと何とかやっていけている。
「一斗、今日暇か?」
「あー悪い。バイトだ」
「え?バイト始めたの?」
「ああ、最近な」
「どこどこ?」
「教えるわけないだろ?」
「えー何で」
「お前のことだから部活終わりに冷やかしに来そうだし」
「あちゃーバレてたか」
「そう言うことだから」
そうして俺は席を立つ。
「おう、頑張れよ」
「ありがと」
俺は一人バイト先のファストフード店へ向かった。
「失礼します」
社員用の裏口から店内に入る。
「あ、上技くん」
「どうも」
作業を行っていたのは
同じ高校の三年生。ポニーテールが似合う少し大人っぽい印象の人だ。
「今日は店長いないんですか?」
「うん。休みみたい。ついでに今日は私と上技くんだけ」
「あ、そうですか」
「え?それだけ?」
「それだけって何期待してたんですか」
「だってバイト先で男女二人きりだよ?」
「心配しなくても何も起きませんから」
「ええー上技くんって本当に男の子?」
「何で今ので俺の姓別が疑われるんですか!」
「あはは、冗談だって」
はあ、と息を吐いてから俺は荷物を置いて、制服からバイト用の正装に着替える。
「今日は何をすればいいですか?」
飲食店のため丁寧に手を洗いながら俺は坂石さんに尋ねる。
「んーレジ打ちはもう教わった?」
「はい、一応は」
「じゃあ今日はレジ、やってみようか」
「分かりました」
そしてキッチンからカウンターへ。
最初は二人だと忙しすぎるのではないかと不安に思っていたが、どうやら俺のシフトは比較的人の来店数が少ない時間帯に設定されているみたいだ。それに加えて客が多く来店したとしても坂石さんがカバーしてくれる。
発言は正直アホっぽいけど、作業はしっかりできて店長にも信頼されているみたいだし。
暫くすると客の入店を知らせる音が鳴った。
「いらっしゃいませー」
マニュアル通り、少し声を上げて挨拶をする。
そして頭を下げる。
「いらっしゃいませ、ご注文………」
「来ちゃった」
「またのご来店お待ちしておりますー」
「ちょっとちょっと。この店は注文も聞かないで客を追い返すの?」
「お前は客じゃないよな?楓」
目の前にいたのは外出用に買った服を着た楓だった。
「いやいや客だよ」
「冷やかしに来ただけだろ」
「それもある」
「ったく」
「それで、どう?バイトは」
「まあ上手くやれてると思う」
「そっか、なら良かった」
「お前もわざわざ見に来なくてもいいだろ」
「まあいいでしょ?これくらい」
「もう二度と来るな」
「あはは。それだけ軽口が叩けるってことは本当に大丈夫みたいだね」
「どれだけ過保護なんだよ」
「あはは。その調子で頑張ってね。じゃあ私は帰る…………」
楓が踵を返そうとしたところで俺は楓の腕を掴んだ。
「このお店は客を無理矢理呼び止めるのかな?」
「何も買っていかない客はいないだろ」
「………身内にお金を使わせるつもり?」
「客なんだよな?」
「…………」
「…………」
「………お金持ってきてない」
「お前、冷やかす気しかなかったんだな」
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