第17話
「バイトしようと思うんだけど、どうかな」
夕食を食べている時だった。
楓が突然そんなことを言いだした。
「バイト?何でまた急に」
「日中暇だからね。それに食費とかあるでしょ?」
まあ、確かに仕送りだけじゃあ二人分の生活は少し厳しいか。
「でもお金の心配はべつにいいだろ」
叔母が残してくれたものを切り崩していけば生活はできる。心配することは無い。
「でもそれはやっぱり一斗くんの好きなように使うべきだと思う」
「好きなことがないからべつにいいだろ」
「…………」
「憐みの目を向けてくるな」
全く、本当に気にしてくれているのだろうか。
「でもやっぱり私も何とかするべきじゃない?」
「でもバイトするにしても色々と問題あるだろ」
「んー、やっぱりそうかな?」
「そうだろ」
一応見かけは未成年だし、ごまかしはできるだろうけど。
「じゃあこの話はナシかな………でもなー」
何だか腑に落ちないと言った感じだった。
そこまで気にするなら俺にも考えがある。
「だったら俺がバイトする」
「え?一斗くんが?」
「ああ、問題はお金だろ?」
「まあ、そうだけど」
「だったら俺がバイトしても変わらないだろ。日中暇なのは………何とかしてくれ」
「でも勉強は?」
「まだ一年だから大丈夫だろ」
俺の言葉に楓は暫く考える。
そして、
「本当にいいの?」
「ああ」
「じゃあ私がバイト先でいいところ見つけておいてあげる」
「………まともな場所にしてくれ」
「まかせて………じゃあここなんてどうかな」
そう言って楓は一枚のチラシをテーブルに置いた。
「…………」
俺はジト目を向ける。
「………どうしたの?」
「お前、こうなる事見越してやがったな?」
「何のことかな?」
ニコリと笑みを返してくる楓。
俺はその顔を見て深いため息を付いた。
俺の通っている高校では生徒のバイトは禁止されていない。
だがバイトをする場合はしっかりとした理由付きの申請が必要なのだが、まあ俺の場合その辺は問題ないと思う。
「先生、これ」
そんなわけで俺は早速その申請書を担任の椚先生に提出しに職員室を訪れていた。
「何だ、これは」
椚道子先生。女の先生だが妙にクールで怖い。
「バイトの申請書です」
先生はそれに目を通すわけでもなく、
「分かった」
受け取るとすぐに付けにそれを置いた。
え?それだけ?
「あの、先生?」
「なんだ?」
「見ないんですか?」
「お前の家の事情は知っている。別に目を通す必要は無いだろう?」
「まあそうですけど、もう少し詳しく話を聞かれると思っていたので」
「確かにお前じゃなかったら詳しく話を聞いていたかもな」
「は、はあ」
「心配するな。別に無責任なわけじゃないぞ?成績もこの前の中間を踏まえて大丈夫だと私は判断したからこうして承諾したんだ」
「そ、それはどうも」
「だがまあ、安心していいと言っているわけじゃないからな。怠るなよ?」
「は、はい………失礼します」
こうして意外にもあっさりとバイトの許可が下りた。
そして早速俺はその日の放課後、楓が事前に調べておいたであろうバイト先の面接へ向かったのだが、
「じゃあ、どれくらいシフト入れる?」
ファストフード店の客席で、店長にそう言われた。
「えっと………面接は………」
「ああ~いらないいらない。もともと人手不足だからね。応募してくれた時点で採用だよ」
手をヒラヒラさせて店長は言う。
この人手不足ということも踏まえてこのファストフード店を楓が選んでいたんだったら逆に怖い。
「は、はい。ありがとうございます?」
「それで、シフトどれくらい入れるかな」
「あー週四でお願いします」
「曜日はこっちで決めていいのかな?」
「あ、お願いします」
「じゃあそれは追って連絡するから。来週からよろしくね」
「はい。お願いします」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます