第15話

「いや、分かるか!」


 俺はバンッと机を叩く。


「ええー」


楓は不満げに言う。


「しかもこれ、後出しじゃんけんだよな?」

「そんな卑怯なことはしてないよ」

「にしても楓は無表情すぎる」

「それは一斗くんの読みが浅いんだよ」

「え?俺の問題?」

「うん」

「…………」

「未来の一斗くんは分かってたよ?」

「マジで?」

「マジ………。それじゃあ次だよ」


 そう言って楓は表情を作る…………いや、作っているつもりなんだろうけどさっぱり分からん。せめていつも通りにしてくれ。何で真顔なんだよ。


「…………」

「分からない?」

「ちょっと待て」

「…………」


 俺はじっと楓の顔を見る。


「…………」

「まだ?」

「『お腹すいた』」

「これだけ考えてそれ?それにさっきご飯食べたばっかりだよね?」

「いや、マジで分からないんだよ」

「正解は『甘いものが食べたい』でした」

「それもう正解でいいだろ」

「全然違うでしょ」


 解せん。

俺にとってはどっちも同じだ。


「じゃあ最終問題。この問題に負けた方がアイスを買いに行くってことで」

「おい待て!」

「用意スタート」

「人の話聞けって………」


 そうして理不尽に始まった最終問題。

 楓は相変わらずの真顔だ。


「制限時間は三十秒だよ」

「おい」


 後になって条件まで付けてきやがる。


「…………」

「十秒」


 刻一刻と過ぎていく時間。

 だけどまあ、当然分かるわけがないのだ。

 何せ真顔だから。


「二十秒」


 だからまあ、いっその事恥をかいてもいいから言ってやろうと思った。


「俺のことが好き、か?」

「…………ふぇ?」


 ぼふん、と楓の顔が赤くなる。


「おい、冗談だぞ?」

「………へ、へえー。言うようになったね」


 べつに嬉しくないんだが?

だがまあ、コイツの普段見ることの無い顔が見れただけでも良かったかもな。勉強にはならなかったがいい息抜きにはなった…………。

息抜き、ね。

まさかコイツにそこまでの思いやりがはたしたあるのだろうか。もしかしたら単なる俺の思い込みかもしれない。

だがまあ、ポジティブに考えて、勉強に詰まっていた俺の息抜きのためのゲーム、とでも捉えておこう。

 とりあえず俺は腰を上げた。


「ど、どうしたの?」


 は?何を今更。


「いや、アイス買いに行くんだよ。負けた方が買いに行くって言ったのはお前だろ?」

「…………」

「で、何がいい?」

「………一斗くんもなかなかだよね」

「はあ?」


 いや、訳が分からん。


「もういい」

「何がだよ」

「もういいからさっさとアイス買ってくる!」

「理不尽すぎるだろ」


 俺は結局どんなアイスを買えばいいかもわからず家を出るのだった。

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