第8話
「今帰り?」
放課後に声を掛けてきたのは成海だった。
「………そうだな」
「何であからさまに嫌な顔するのよ」
「いや、一日で二回も同じ説明をするのは流石に面倒だと思って」
「は?」
「何でもない、こっちの話だ。それで何の用だ?」
「暇なら一緒に帰らない?」
「悪いな、暇じゃない」
「暇でしょ」
「おい」
人をあたかもボッチのように言うんじゃない。
好んで一人でいるだけだ。
「早く準備しなさいよ」
「………はあ」
二度手間だ。
きっと成海はこの先こう聞いてくるだろう「何かあったの」と。
だったら俺のぼろが出る前にある程度簡単に説明しておく方が得策ではないだろうか。
「…………というわけで一人暮らしをすることになった」
下駄箱で靴を履き替えながら俺は説明した。一人暮らしをすることになった、と。当然だが楓のことは伏せている。
「嘘でしょ」
隣で同じく靴を履き替えていた成海が言う。
「マジだ」
「自炊とかできるの?」
またこのくだりか。
「人並みには」
「ふーん。アンタも苦労してるのね」
「それはもう」
色々と苦労しているぞ。
「よし決めた」
「何を?」
「手伝ってあげる」
「は?」
「一人暮らしなんでしょ?」
「一応」
「だから手伝ってあげる。どうせアンタ掃除とかできないでしょ」
「いや、いい」
「どうして?」
「それは………」
暫く俺は黙り込む。
成海がジト目を向けてきた。
「アンタ、何か隠してるでしょ」
ほらこうなる。
「何も」
「手遅れよ」
「はあ…………」
「じゃあ今から行くわよ」
「まさか………」
すると成海はニヤリと笑う。
「勿論アンタの家よ」
「いや、マジで勘弁してくれ………」
「何?やましいことでもあるの?」
「むしろやましいことしかないんだよ」
「そんなこと言われて私が帰ると思う?」
「ここで俺がやましいことはないって言っても帰らなかったと思う」
つまりはどちらにせよ成海が家に来ることは避けられないというわけだ。
「往生際が悪いわよ」
「わかったよ………ただし」
「ただし?」
「誰にも言いふらすなよ?」
「ますます気になってくるわね」
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