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寄せてきた波が。足の甲をくすぐるみたいに濡らして、あっという間に引いて行く。
大人や子供が燥いで遊んでる声に囲まれて急に毒気に中てられたような気がして、人の声っていうよりただただうるさい騒音みたいな声を聴いてたら、何だか一人だけ浮いてる気がして急に此処から離れたくなった。
見回したら、少し先の岩場の方は人が少なかったから。逃げるように駆け出す。
岩場は砂浜とは違って、水着の奴はほぼ居なくて、服を着て帽子被った親子連れがバケツを持ってるってのがパターンみたいだ。
燥いで騒ぐ、っていうより皆何か探すみたいに下向いて、時々岩の間に顔や手を突っ込んでる。
何が居るんだろう、って俺も岩に右足を乗っけていよいよ磯デビューした途端。
「…っっ\(゜ロ\)(/ロ゜)/!!?」
濡れてる岩がこんなに滑るんだなんて知らなくて、両手が上がる勢いで右足がずる、って進んでバランスを崩したけど慌てて持ち直した。
「…――((+_+))」
こんなとこ竹兄に見られなくてよかった…。って思いながら二歩目は慎重に足を乗っけて、三歩、四歩と進んで行くと。直ぐに平らな岩のテーブルの合間に、潮溜まりが見えたから近づいて覗いたら。
「わ…すげー…。嘘だろ」
水の中だけどすぐ手の届くところに、本体の直径が5センチくらいのウニが5、6個固まって居たから驚いた。
またよろよろと両腕水平にあげてバランスとりながら滑る岩の上を進んで岩の隙間を覗く。
「こんなに簡単にウニって見つかるんだ…」
やっぱりそんなに苦労しなくて取れそうな所に、小さいけどウニが固まって居たから。いよいよ膝を衝いてひとつつまみ上げようと手を伸ばした。
「トゲすっげー」
本体の丸い所より3~4倍はありそうな、長いところで20センチ以上ありそうな細いウニの針をつまみあげてみたら、呆気なくぱき、って針が折れて岩の上にぐしゃ、って落ちた。
「意外と脆いんだ」
針折れて少し形は悪くなったけど、このウニ竹兄に持って行って見せたい!って思った俺は。いよいよ両手で針摘まんで起き上ったら、砂浜に戻って竹兄の居る白いパラソルの下めがけて走り出した。
クーラーボックスの前に座って、皿とか箸とか取り出してる後姿の竹兄を驚かせたくて。
「た~けにい~!!」
って呼びかけたけど。振り返らないまま忙しそうに、
「まだ火を起こしただけだから焼けてねえぞ。もうちょっと遊んで来い」
全然俺のこと構ってくれないから、
「ねえ竹兄。これ食べられる?」
って聞いて両手でトゲつまんでたウニを差し出したら、面倒臭そうに振り返った竹兄はびっくりした顔して急に立ち上がった。
「馬鹿ッ!!!!直ぐに放しなさい!!」
なんて急に大声出されて怒られたから驚いて、思わずつまんでたウニを竹兄の方に放りだしちゃったら、
「うわぁ!!御前こっちに飛ばすなよ!!」
竹兄がくる、って反転するようにしてすれすれでウニの針避けたら、少し先で針を折りながらぽす、って軽い音立てて落ちた。
「あ…ごめん竹兄!!びっくりしちゃって」
って謝ったら。
「頼むよ小野―。海は楽しいけど、おねいちゃん以外にも危険がいっぱいなんだよ?」
竹兄はウニを指さしながら首をがっくり落とした。
「これウニじゃないの?」
って針の折れたウニのところに行ってもったいないよな…ってまた持ち上げようとしたら。
「やぁめーれっ!そいつはウニはウニでも『ガンガゼ』っていう毒ウニだ。長い毒トゲが一杯ついてて、触る者皆傷つけて痺れさせる昭和の不良みたいな奴だ…。刺されたら、死にゃあしなくても皮膚が紫色に腫れて、もうイライラするくらいジワジワ痛いぞ!!」
怖い顔して叱られたから、両手を上げて「ガンガゼ」から離れた。
「…そうなの?」
「そいつは1個だけじゃなくて周りにうじゃうじゃいただろ?」
竹兄がまるで見知ってたみたいに確認してくるから。
「うん。――5~6個ずつの塊で群れがあって、あのあたりの岩場の色んなとこに居た」
懸命に走ってきた時には気づかなかったけど。此処より遠くて何百メートルかありそうな遠いところを指さした。
「そいつは海藻を食い散らかしてガンガン増えるから。漁場を荒らして漁師から厄介者にされてるし、毒があるなんて知らない御前みたいな子どもが刺されて泣くから、海のレジャー客にもすげぇ嫌われてるしで、誰も獲る奴なんか居ないから天敵居なくてどんどん増えるんだ」
「そう言えば俺の周りの奴誰も獲って無かった…」
あんなに採りやすいところでウニが固まって居るのに、誰も見向きもしてないって所でもで気づくべきだったと、俺はまた「知識がない」ことの怖さと無謀さを思い知らされて凹んでたら。
ガンガゼ差してた人差し指で今度は俺のこと指さしてニヤニヤした竹兄が。
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