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階段降りても何処に行ったらいいかも解らなくて。結局虚子の句碑のところに戻って名残を惜しんでいたら。のんびり降りてきた竹兄に声を掛けられた。
「行くぞ小野…」
「竹兄、次何処に連れて行ってくれるの?」
俺はこの句碑と灯台を見るっていうのが一番の目的だったから。
「俺もう此処に来られたら満足できた」
って感謝の意味で伝えたつもりだったけど。
「じゃあもう帰るか…」
どうしたんだろう、何だか疲れた声で竹兄にそんな事言われて驚いた。
「え?――」
言葉が続かないくらいショックを受けてるのが解ったのか竹兄が慌てて。
「あー!!嘘嘘。冗談だよ、イチイチそんな顔するな。昼飯此処で喰ってから、美術館か港を見学するぞ。宿も横須賀市内だ」
急に凄い勢いで歩き始めた竹兄はここまで来た道をそのまま戻って行くみたいだから、追いていかれないように並んで走ってついて行った。
「来るとき通ってきたレストランに行くの?」
「違う違う。何の為にでっかい車借りてきたと思ってるんだ。御前にも手伝ってもらうぞ」
「手伝う?」
そう言えば竹兄は借りてきた車の後ろに朝から色々積み込んでたみたいだ。
「公園内に解放してる浜辺があって、其処でバーベキューするぞ。パラソルもグリルも肉も野菜も全部積んであるから。運ぶトコまではオマエも手伝えよ?」
見たり聞いたりしたことはあったけど。するのは初めてだ。っていうか、外で何か作って食べるのが初めてだ。
「何か…」
「ん?」
虚子の句碑見たらほぼ俺の旅の目的達成したなんて思ってたのに。
また竹兄が何か俺に「初めて」を見せてくれるんだって解ったらわくわくしすぎて言葉に詰まった挙句。
「――楽しそう」
絞り出した言葉がたった一言だけだったから。とにかく嬉しいんだ、って事が伝わるような笑顔になってるか心配になる。
竹兄はそんな俺を見降ろしながら、ちょっとシニカルに右の唇の端っこを上げて笑って見せた。
「おいおい、『楽しそう』じゃ無くて楽しいぞ?」
たどり着いた大きな黒いSUVの後ろのトランク開いた竹兄は、次々と積んできた荷物を外に出し始めた。
「手伝うよ竹兄」
「よしよし、じゃあ御前はこれと」
大きな白いビーチパラソルを手渡された後。
「これを持って行け」
大きなクーラーボックスを渡されたからストラップを肩から掛ける。
「はい!」
竹兄は何が入ってるのか解らないけどしゃがんだら人が入れそうな大きなスポーツバックと、二人で使うには大掛かりなグリルセットを担いだらトランクのドアを勢いよく音立てて閉めた。
「よし、じゃあ行くぞ」
って、今度は緩やかな下り坂を並んで歩きながら、浜辺に向かっていく。
「浜辺は海水浴場も兼ねてるからなぁ。水着のお姉ちゃん達眺めながらバーベキューとか、最高だろ?」
暫く松林を切りとおしたみたいな小道を進んで行ったら。
徐々にアスファルトの道が砂塗れになってきて。いつの間にかアスファルトが無くなって完全な砂道になる頃には。
服着てる人がいて水着の人もいて、海に入って泳いだり砂浜で遊んだり、寝そべったり座ってたり、それこそバーベキューしたりって光景が見えてきた。
わあ…何だこのカオスな感じ。って少し戸惑ったけど、
「――小野、先に行って好きな場所にそいつを立てろ」
竹兄に言われて、とりあえず
「ハイ!」
大きな返事してから、とにかく飛び込めって。白いパラソルを肩に担いで駆け出した。
砂浜に踏み込んだ足は、一歩出すごとに少し沈んで思ったより進めない感じがする。
団体とか家族連れとかが多そうなエリアを避けて、岩場に近い方でパラソルを開いて日陰を作って、支台に差し込んで固定してから、竹兄を探した。
「たけにー!!此処だよー」
手を振ったら。気づいた竹兄が少し手を上げてからこっちに向かってきた。
「おー。小野、ご苦労さん。…何か砂浜の上の方が、アスファルトより暑い気がするなぁ」
重そうなグリルセットを肩からおろした竹兄が、そのまま組み立てを始めたから。
「竹兄。何か俺手伝えるコトある?」
「あー。此処は大丈夫だ。オマエも海に初めて来たなら折角だからもっと近くで見て来い。焼けたら呼んでやるから」
「――靴脱いでもいい?」
「車乗る前ちゃんと砂落とせよ?」
「解った!」
砂浜に座り込んで、靴と靴下をもどかしく一気に掴んで脱ぎ去ってから砂の上に足を置いたら熱くてびっくりして思わず。
「行ってきます!!!」
これは冷やさないと火傷するんじゃないかって怖くなってとにかく波打ち際まで走って行ったけど。
「――…」
何だか燥いでるの見られたらまた竹兄に「コドモだ」って笑われそうで。波打ち際で立ち止まった。
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