32
って尋ねると、だらりと座ってたソファーから起き直って背を伸ばした建君ははっきりと頷いた。
「うん。小さいころから決めてたから」
「御前が御師僧サマか。スゲーな…」
って驚いてる竹兄に、
「竹兄は宮司さまにならないなら何になるの?」
それは俺も凄く興味があるから。俺も思わず隣の竹兄の顔に視線を送ったら。言うかどうしようか凄く迷った後で。
「動物学と古代生物学のゼミに入ったけど。まあ将来は…ユーマの研究家になろうと思ってる」
「ゆーま?…ってサトリ君解る?」
「ううん、解らない」
初めて聞く言葉に俺と建君が首を傾げてたら。
「UNIDENTIFIED MYSTERIOUS ANIMALの頭文字を取ってUMA。未確認生物のコトだよ」
「あぁ。ネッシーとか、ツチノコとか?」
あれって本当に実在するの?と思ったけど、大真面目に頷いた竹兄は。
「まあ、有名どころで言うとそうだな」
「スゲー。カッコいい!捕まえたら俺も見せてね!」
ってお願いしてる建君に、竹兄は大きく頷きながら。
「ああ、世界の裏側から呼んでやるから待ってろ」
竹兄が応えてるのを見ながら。二人とももう、将来なりたい自分っていうのが確立されてて、それに向かって進んでるんだってのが解ったけど。
じゃあ…俺って?
――高校だって竹兄が薦めたから選んだだけで。ぼんやりだってその先の事考えられたこと無い。
「やったー!!俺が住職になるのが先か竹兄がネッシー捕まえるのが先か競争だね」
建君と竹兄が盛り上がる中に、とても入っていけそうになくて。
「――…」
黙って眺めてるしかなかった俺に気づいた竹兄が。
「どーした?小野」
「――俺まだ…全然何がしたいのか自分で解んないから…二人が羨ましい」
って、こんな事素直に言えるのは。多分この二人も俺に色々話してくれるからだ。
あのなあ小野、って隣から俺の肩に手を乗せた竹兄が。
「この年で俺や社家みたいにもう将来のこと決めてる方が珍しい方だぞ?それにな…。――なりたいモノに成れる奴の方が、どうしたって少ないんだ」
迷ってる俺に言うのを、建君が呆れた顔で止めた。
「たけにい、それ全然フォローに成ってないよ?」
「いいから最後まで聴けって。だから、成りたいモノが解らないなら。『何にでもなれる』準備をしておけって言ってるの」
ああ。そういえば3年生になったばかりの頃俺が「高校なんか行かない」って言った時にも竹兄は留めてくれてた。
「コンビニバイトは最後まで取っておけ…って竹兄前に言ってたよね」
うんうん、と頷いた竹兄は。
「御前は何になりたいかを捜さなきゃならない分、ちょっとだけ俺と社家より遠回りってだけだ。ちゃんと悩んでるお前は、解らないまま流されてく周りの殆どの奴よりずっと真面目に将来考えられてると思うぞ?だから――胸張れよ」
竹兄が俺にかけてくれる言葉は何時だって、「俺なんか駄目だ」ってマイナスになって凹んでるトコロを「そうじゃないぞ」って全部帳消しにした上にむしろプラスに変えてくれる魔法みたいだ。
こんな俺に何時でも力をくれる。
肩から頭に手を乗せてよしよし。って大きな手で撫でてもらって嬉しくて、頷きながら。
多分俺凄く自分でも笑顔になってるって解った。
「ふーん…ヾ(=ε=)」
テーブル越しに俺たちの事眺めてた建君が、腕組んで唇尖らせながら鼻を鳴らしてたから、急に恥ずかしくなって俺は目を逸らしたけど。構わず竹兄は俺の頭をなでなでしながら。
「何だよ社家」
「俺轟君からそんな風に褒めてもらった事無い」
そんな風に、って言うか。俺は建君にダメ出ししてる轟君しか知らない。
「おいおい。シャケ兄が俺みたいに喋って褒めたらどうなるんだ?」
って苦笑いしながら「想像してみろよ」なんて言う竹兄に。建君は小さく口を開いて、視線を上げながら、暫く何かを見てるようなしぐさをしてたけど。突然眉が険しく寄って何か怖いモノ見たような表情になった。
「轟君が俺のコト褒めるなんて…嘘くさい」
ええ!?其処なんだ?って俺は思ったのに。
「――だろ?」
竹兄は我が意を得たりとばかりに右手の人差し指で建君をびし、っと指差した。
「って事は。何も言わないのが、あいつの中では一番御前を褒めてる時なんじゃないの?」
「そうだね――そうかもしれない」
流石の竹兄は。俺ばかりじゃなくて最後は建君まで納得させて見せた。
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