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って食い下がってくれたから、がんばれ、って祈るような気持ちで見守るしかない。
「何言ってんだ。社家は社家兄に見て貰えば良いだろ?」
「どうせ轟君『ヤダ』って言って全然教えてくれないもん。去年俺、受験勉強ひとりでやったんだからね?」
ちら、っと建君が俺に視線を投げてくるのは。「頑張るからね」って言ってくれてるサインだ。
「いいなぁサトリ君。俺もお兄ちゃんに見て貰いたい」
俺が困ってるからちゃんと竹兄にお願いしてくれてるんだって解って。
「たけにい。呼んであげようよ」
って、俺も一緒になって何とかお願いしたら、ひとつ溜息をついた竹兄は、建君を指さしながら。
「あのなぁ。御前も高校生なんだから。折角の夏休み、不純異性交遊でも、寺の修行でも、バイトでも、此処に来なくたって出来る事が沢山あるだろー?」
建君を差してた指を今度は俺に向けると。
「小野はこの夏休みの40日が勝負なんだから、邪魔されたら困るんだよ。御前は毎日来るなら、精々午前中2時間くらいで帰れ」
竹兄はホントに俺のこと熱心に教えてくれるつもりだから、そんな風に言ってくれる。
ホントに俺ひとりが覚悟を決めればいい問題だった。
「それは俺だって一日中此処に居る訳じゃないよ?」
って、腕を組んでソファの背にに沈むように座り直した建君は。
「来られるのは8月に入ってから。平日の朝稽古上がりに、9時頃から2時間くらいかな?」
――え?7月の最初から来るんじゃないんだ…って。俺の方がびっくりした。
「8月から?」
7月からじゃないのかよ、って突っ込む竹兄に、俺も内心そうだそうだ、って思ったけど。
腕組んでどっかりソファーに座った建君はそのまま腕を組んで一つ大きく頷いた。
「うん、だって俺二段の昇段審査が8月の第1日曜日にあるし。それまでは俺お勉強そっちのけで稽古だから」
そうだよ…。俺の都合ばっかり言ってたけど、建君だって夏休みの計画あるんだよね、って思い直して反省した。
「初めて轟君に段位が追いつくんだ」
キラキラしてる、って言えるくらいの笑顔の建君を見た竹兄は。
「やっぱり御前…社家兄に勉強教われよ」
「――轟君は俺のコト、稽古以外は相手にしてくれないもん」
建君は何時も轟君に構ってもらいたがってるのに、轟君は何時もそれを鬱陶しそうに避けてるような兄弟の間柄でも。
唯一対等に扱ってもらえる合気道の稽古は、建君にとって大切な時間だって教えてくれてた。
何時も「早く轟君に追いつきたい」って言ってたのが、いよいよなんだ。って解ったら、建君にとっても今凄く大事な時期なんだと解って凄く申し訳なくなった。
竹兄は少し建君が凹んだように見えたことに慌てて。
「いやいや!そんなコトないぞ?社家兄は…何時も御前の事視てないようで、ちゃあんと、見てるぞ?」
って珍しくフォローを入れてる。
「だって…最近轟君良く書院に籠ってるし。座禅堂にも籠ってるし。俺の事構ってる暇なんかないよ」
って投げやりに言う建君に。急に竹兄がニヤニヤしながらからかい始めた。
「何だ何だ社家轟17歳。悶々としちゃうお年頃なのか?」
「――うーん。って言うか。多分轟君、進路の事で悩んでるんじゃないかなぁ」
高校2年生の夏で早くも、卒業した後の事考えなきゃいけないのかぁ…って。今から勝手に心配になる。
「なんで悩むんだ?アイツ寺継ぐんだろ?」
俺も轟君はきっと六勝寺を継ぐんだと思ってたし、きっと法衣が似合うんだろうなあなんて漠然と思ってたのに。建君は、
「じゃあ竹兄は、神社をついで宮司さんになるの?」
竹兄に疑問を投げかけてきたから。当然そうだ、って言うんだろうと思ってたのに。竹兄の方こそ「何言ってるんだ」って言うくらいの表情で。
「継がない。――俺が神職なんて成ったら罰が当たる」
「竹兄武蔵八幡継がないんだ…」
じゃあ何するんだとも竹兄からは聞いた事がなかったから、茫然としてたら。
「神社継ぐなら神職の資格が取れる大学選ぶし。俺は将来やりたいコトがあるって言っただろ?親父殿にも『継げ』って言われてないし」
竹兄がカギ大出てやりたいことって何だろう。
「そおいうのはさぁ。宮司さまとしては、面と向かって言えないんじゃないの?」
うちの父ちゃんも、轟君や俺に『寺継いでくれ』って一言も言った事ないもん。って言う建君に。
「ほら、オマエだって継ぐ気は無いんだろ?今時家業を継がないなんて珍しくもなんともない」
って竹兄があしらったら。建くんはふるふると首を振った。
「んーん。俺は轟君が六勝寺継ぐなら、他の御寺探さなきゃいけないから」
「え!?」
そういえば将来何になるのか、って話を建君としたことはなかった。
「建君お坊さんになるの?」
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