29
「じゃあ…冷えてるうちに」
と音頭を取った竹兄が真っ先に手を伸ばすから。俺たちも次々スイカに手を伸ばす。
「「「「いただきまーす」」」」
「――そおだ!!」
凄い勢いでスイカを食べながら建君が突然しゃべり始めるから、隣の轟君が、
「食うか喋るかどっちかにしろよ建」
叱ったら。口を左手で拭いた建君が食べかけのスイカを右手に持ったまま。左手にもう一個スイカを確保した。
「――全治2か月って言ったら…たけにー夏休み中何にも出来ないの?」
尋ねられた竹兄は、俺の方見てニヤニヤ笑い始める。
「そーなんだよ。遊びに行けねーしバイトにも出られねえから、今年の夏は小野のカテキョーする予定」
これは飛び火して弄られると覚悟したけど。とりあえず聞こえない振りしてスイカを食べ続けてたら、
「そっかぁ。サトリ君受験生だもんねぇ。――何処受けるの?」
いよいよ巻き込まれた俺は、
「――某都立」
って白状したら。
「へぇ…凄いね!!」
俺の普段の成績を知ってる建君は、超進学校の名前が俺の口から飛び出したから驚いてる。
「本当はムサナンのつもりだったんだけど、竹兄に相談して某都立に変えた」
「ムサナンだって相当いい学校なのにどうして?」
それは俺だってそう思ってるよ…って言い返そうとしたけど、
「そりゃあ俺が勉強見てやるんだから、もっと上を目指して当然だろ?」
代わりに応えた竹兄の答えを聞いて、轟君が溜息をついて難しい顔から怖い顔に変わるのが解って。俺の方が思わず首をすくめる。
「自分の価値観を押し付けたがるのは竹丘先輩の悪い処ですよ。――小野君、この人の言う事ばかり聴く必要はないんだぞ?」
そのまま俺まで叱られたけど、此処はちゃんと意見を言わないと竹兄が悪者になると思って、
「でも俺…竹兄が言ってる事で『それは違う』って思った事無い…」
覚悟して言ったのに、轟君は俺の方じゃなくて、隣の竹兄の方をじっと見てる。
「――」
「こっち見んなよ、シャケ兄」
って竹兄が犬を追っ払うみたいに手を振るのは、態々煽ってるんじゃいかと隣で俺の方がハラハラする。
「自意識過剰じゃねえの?センパイ。対面なんだから見たくなくても目に入るんだよ」
って言うかシャケ兄て呼ぶなよ、なんて轟君の方も受けて立つとばかりに竹兄のこと煽るから。
「じゃあ、そんな目でシカンすんな」
何を言ってるのか解らない言葉で竹兄が言い返して、俺が頭の中で漢字変換できなくてそのまま黙ってスイカを食べてたら。
「あんたの事をシカンできる要素が何ひとつない。見られたく無きゃスイカ置いて何処か行け。そもそも可愛くも女子でもないあんたの、何処見て興奮しろって言うんですか?」
漸く二人が『視姦』って言ってるんだと解ったけど。一歩遅れて二人の会話に追いつく間にもどんどん二人の悪口の内容が酷くなっていく。
「またまたー。俺のコト大好きな癖に隠すなよ」
なんて今度は照れ始めた竹兄に。初めて見たんじゃないかってくらい良い笑顔の轟君が、
「先輩実は目も頭も悪いんですか」
笑顔なのにこの二人。確実に怖い、って、黙々とスイカを口に入れながらやり過ごしてる俺の向かいで。
「ねぇ。なにケンカしてんの?――仲良くしようよ、二人とも」
ひとり凄い勢いでスイカを一番食べながら、二人を面倒臭そうに止めてる建君ってやっぱり大物だ。
「違うぞ社家。仲良しだから悪口言い合えるんだ。――なぁ社家兄」
って竹兄が力説すると。轟君が合いの手のように言い返した。
「嘘吐け、先輩と俺は最悪の相性だ。俺は仕方なく付き合いで来ただけだ。――それから、今度社家兄って呼んだら返事しねえぞ?」
また俺だけが縮み上がるような鋭い視線で竹兄のこと睨み付ける轟君に、相変わらず竹兄はひとり適当で。
「うぅわぁ~。出たよ心配性のお兄ちゃん。麗しい社家家の兄!弟!愛!――コレはもう、愛の押し売りって奴だな!」
なんて冷やかし続ける竹兄に。轟君はもうスイカを食べる気が失せたみたいで手皿をテーブルに戻した。
「ああ、解った。先輩は俺達が羨ましいんだろ?――アンタこそ今まで人に関わって面倒に巻き込まれるのが嫌いな人間だった癖に、小野君には随分と執着してるじゃないか」
――執着?
――竹兄が、俺に?
どうしてこんなに、嬉しいと思えるんだろう。
「当たり前だろ。名前違っても小野は俺の弟だ。他人の御前等より執着するし、干渉するし、愛情を押し売ってやる」
開き直りみたいに言う竹兄の言葉聞きながら勝手にカラダが熱くなるけど。
周りに気づかれないように、平気な顔を装ってスイカを食べ続けてたら。
「――俺の家もセンパイの家も兄弟仲良くて良かった、ってコトで手打ちだな。帰るぞ建」
スイカが無くなったタイミングで轟君が立ち上がった。
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