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って久々に竹兄の言うこと聞かなかったら。俺が拒否する声なんか全然聞いてくれずに腕を組んだ竹兄は何度も頷きながら、


「オマエの志望校はたった今、ムサナンから俺の行った久我山の某都立に変更されました」



流石に俺だって、偏差値70じゃあほぼ圏外。偏差値75でやっと合格圏であとは運頼みなんて言われてるその学校の恐ろしいほどの難関さは知ってたから。


「俺に某都立なんてムリだよ!!」


っていよいよはっきりと抵抗したのに。


「ムリじゃない。――だって俺が、この夏で御前の偏差値を10上げてやるからな」


俺人にモノ教えるの得意だからな、って竹兄だけが自信満々なのが気に入らなくて。不満だから黙って反論すらしない。


「…――」


「某都立はなー。――いい意味で他人の事に無関心な奴しか集まってないぞ?――御前みたいに干渉されるのが嫌いな奴には丁度良いんじゃないか?」


社交的に見える竹兄から高校の頃の友達の話を聞いた事が無いのは、そういう理由なのかな…って思ったら。もしかしたら俺に向いてる学校なのかもしれない。って思ったし。


竹兄の後輩になれるんだ…って思ったら。少し某都立に興味が出てきた。


「今からでも、間に合う?」


なんて聞いたときには既に、やるって俺の中で決まってた。


「モノ教えるのが得意な俺と、理解が早いオマエが本気になれば、1か月もあれば余裕だ」


「じゃあ――…宜しくお願いします」


でも…。偏差値75とかホントに大丈夫なのかな…って思いながら、クッションを横に置いて、ラグの上で正座で平伏した。


「よしよし。親父殿にも志望校変えるって話しておけよ?」


って話が一区切りついたところで、ドアがノックされた。


『マサヒコ』


お父さんの声だ。


「入ってまぁす」


この返事って入っていいのか悪いのかちゃんとした答えになってないよね。


って思って笑いを堪えてたら。ドアが開いてお父さんが隙間から覗いてきた。


「ああ、サトリ君も此処にいたんだね?――マサヒコ、社家君が兄弟でお見舞いに来てくれたから居間に通したけれどどうする?」


一昨日話をしたばっかりだったけど、早速来てくれたんだ。と思ってたら。


竹兄がソファから立ち上がって。


「あぁ、動けねぇ訳じゃないから俺が下に行くよ」


「解った。待っていて貰うから、支度が出来たら来なさい」


お父さんはそのまま部屋に入らずに戻って行った。


竹兄は外出するときは着るものに気を遣っててオシャレだけど、その分家の中では凄くラフで、今もTシャツとハーフパンツだから、きっとこの格好では轟君と建君には会わないとお父さんは思ったんだろう。


「着替えるの面倒だから、これにしたのになぁ」


竹兄はいてててて、なんて言いながら手を上げて、ラックにかかってたハンガーを自分で取ろうとするから。


「大丈夫!?竹兄、やっぱり建君たち此処に来て貰おう?――俺、行ってくるよ」


立ち上がって部屋を出ようとしたら、待て!って引き留められた。


「いいから。それなら取り敢えず、着替えるの手伝ってくれ」


ほら、って両腕を前に出した竹兄のTシャツの裾を、両手で掴んで上にまくり上げた。


高校の頃みたいに授業でカラダ動かす時間もないし大学の近くのジム行ってるって言ってた竹兄は、所謂『シックスパック』で腹筋割れてたし、僧帽筋とか広背筋とかも鍛えて、カッコいい逆三角形のカラダをしてたけど。


今はその羨ましいくらい綺麗な身体は痣だらけな上、コルセットで大部分が見えなくなってた。


脱がせてあげたTシャツを畳みながら。


「竹兄どれ着るの?」


「そのハンガーにかかってる、そう、その白いシャツを頼む」


襟付きの白いシャツを着せてボタンを掛けて。


「ジャケットどれにする?」


「紺のシアサッカーにするか…。そのコットン生地だ」


訊ねたら迷わず紺の軽いジャケットを選んだから。また背中にかけて、両袖を通してあげたら。


「ガキの着替えと変わんないなぁ」


って、嘆いてる竹兄に。


「俺は…楽しいよ?」


気にしないでいいよ、って言ったつもりだったのに。竹兄は口を尖らせて。


「何言ってんだ御前。俺は着せ替え人形じゃねえぞ?」


「アハハ。ゴメンね竹兄」


痛いのを我慢してるんだろう。声には出さないけど壁に手を添えて、何時もなら駆け降りるように降りる階段も一段一段ゆっくり確かめるようにしながら1階まで降りた竹兄と居間に行ったら。


ソファに並んで座ってた建君と轟君がこっち見た途端急に立ち上がったから俺の方が驚いた。


「たけにー!!!?」


いつもにこにこしてる建君が尋常じゃなく目を剥いて、叫び声をあげる。轟君も頭を深々と下げて謝りながら。


「いや――全治2か月とか…また何の冗談言ってるのかと思ってました。先輩済みませんでした」

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