24
大声で笑った後急にまた横向きで背中を丸めるようにして苦しそうにしてるから。
「竹兄!!」
急いで駆け寄って、手を差し伸べてぎゅ、って握りしめる。
「大丈夫!?」
俺の手を掴んで支えられながら何とか起き上った竹兄は。
「痛ててて…大丈夫に見えるかコレが…。――何だ昨今のコーコーセーは、群れないとケンカもできねぇのか?」
擦り傷になってる顎とか殴られて内出血してる頬とか指先で恐る恐る触って、傷に触れて痛かったのか顔を顰めながら文句を言ってる。
「――ごめん…」
「何謝ってんだ」
「竹兄と約束したのに、守れなかった」
俺が頭を下げると、解らない、という表情で首を傾げた竹兄は。
「約束?」
竹兄は何の気無しに言ったのかもしれないけど。俺にとっては約束のつもりだったんだから覚えてる。
「『知らない奴に会ったら、全速力で逃げろ』って」
何だ…と苦笑いした竹兄は、腕ひとつ動かすのも痛そうにしながら俺の頭にぽん、と右手を乗せた。
「馬鹿だなぁおまえ…」
そのままよしよし。って少し手荒く頭を撫でられて。少しくすぐったい気持ちになってた俺に。
「大体約束なんてもんはなぁ、破る為にあるんだよ…」
「えぇッ!?」
良い子には教えないような持論を展開されて。思わず頭の上の竹兄の右手をがし、って両手で掴んだ。
「だって御前が約束破って此処来て暴れてくれなかったら、俺は此処で放って置かれて熱中症で死んでたかもしれないだろ?――だから『約束破ってくれて、有難う』だ」
すげー感謝してる、なんて言われて今度は別の不安に襲われて。ずっと俺の頭撫でてくれてた手を下して。
両手でぎゅ、っと掴んだまま、竹兄の表情を確かめた。
「――竹兄俺のこと――怖くない?」
「はぁ?――怖い?」
どうしてそうなる、って言いたげな顔されて。
「俺って…普通じゃない、って皆から言われるから」
『どうしてみんなと仲良くできないの』『御前はおかしい』『普通にしろ』って。今まで何処に行っても言われてきた俺は。
今日みたいな事が起きる度に、周りから気味悪がられて避けられてきたのに。今回も同じことを繰り返してしまった事を今更無かったことにできない。
きっと竹兄もお父さんも。俺がこんな奴だって知ったら、俺を見る目が変わるに決まってる…
「ああ?」
でも竹兄は。何だそんな事か、ってくらいに。笑顔を見せてくれた。
「御前は強いけど。全然怖くない」
『強いイコール怖い奴』っていう方程式が俺の中にはあったのに。竹兄の中ではそうじゃないみたいだ。
「何で?」
「御前は自分の為に強さを誇示して使う奴じゃないって知ってるから、怖くない。そもそもそんな可愛い顔して何処が怖いんだ」
また鼻の奥が痛くなってきて。これは涙の前触れだって解るから必死に我慢してるのに気付いたのか。
「いいか?小野」
竹兄は俺が両手で握ってた右手に、全身痣だらけで痛いはずなのに左手を添えてぎゅ、と力強く握り返してくれた。
「人の為に力を使えるのが、本当に『強い』奴だ。御前はそう言う奴だ。此処に転がってる奴等は、そう言う意味で全員御前よりずっと弱い」
この人はどうして。俺が何も言わなくても全部解ってくれるんだろう。
「――いいじゃねぇか。『普通じゃねぇ』ってのは、人と違うって事だから俺は大好きな褒め言葉だ。胸張ってその二つ名背負えばいいんだよ」
この人はどうして。
――どうしてこんなにも、俺の気持ちを根こそぎ救ってくれるような言葉を何時もくれるんだろう。
何時もみたいに頭に乗せられた優しい右手の重さがトドメだ。
「――っ!!」
急に両方の頬が熱くなったのは、涙が溢れて伝い落ちたからだって解った。
「泣くな。――泣くのだって、自分の為じゃなくて人のためにしてやるもんだと俺は思うぞ?」
竹兄が言うならこれからは自分のためには泣かない、って。
勝手に心の中で誓いながら、濡れてる頬をごしごし手の甲で拭いたら、頭の上の手が撫でてくれた。
「よしよし――だからこれくらいでこいつらも勘弁してやろうな?」
涙を堪えてまだ言葉が出ないから、俺もただ頷いて了解した。
「じゃあ、手ぇ貸してくれ」
いてて、って顔顰めながら、俺の肩に腕を掛けた竹兄はやっとのことで地面から起き上がった。
「取りあえず…俺のケータイ取り返してから、此処に救急車両呼ぶぞ」
倒れてる奴ら見回しながら言うから、こんな奴等放っておけばいいのに。って不満な俺が返事しなかったら。
意地悪なこと言うなよ、って苦笑いした竹兄は。
「あのなぁ。炎天下のなか長時間放って置いたらコイツラ全員死ぬぞ?俺もオマエが来なかったら死んでたかもしれないからな。取り敢えず此処から出たら、自販機かコンビニで水分取らないと」
もう喉がカラカラだ、と言う竹兄に。
「――解った」
漸く一言だけ返事をした。
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