22
「すみません。――竹丘さんの居場所が解ったんで…迎えに行ってきます」
鞄から財布出して、自分で払ったことないからココアの代金が解らなくてとりあえず千円札を出すけれど。
「ああ、良いよ小野君。――これは私の奢り。今度またゆっくり、一人でもおいで?」
マスターは何も聞かないでくれた。
冷房効いた少し照明も落とした店から鞄掴んで飛び出したら。
眩暈がするような真っ白な日差しと、全身を一瞬のうちに襲ったひりひりするような熱気で。今日の予想最高気温37度だったって思い出す。
統合で廃校になった某小学校に来いって言われて。細かい場所なんか覚えてなかったけど、とにかく隣町の方向に走った。
10分以上走って。息切らしながら時折減速して。馴染のない住宅街を歩き回ってたら。フェンスと植え込みが延々続いてる一角が見えた。
『あれだ!』
体育館側の某小学校の裏門にたどり着いて。廃校になってるから校門は閉じられてチェーンで封鎖されてたけど。構わずよじ登って中に入り込む。
バイクのエンジン吹かしてる音が微かに聞こえて、そっちの方向に進んで体育館を回りこんだら。
スクーター2台。バイク2台が止まってて。エンジン音聞こえた1台は校庭で乗り回す音だった。
人数はパッと見じゃ数えられないけど、同じ制服着てる奴が10人以上は立ったり座ったりして騒いでるその近くで。
ひとりだけ、制服じゃない男がグラウンドでうつ伏せに倒れてる。
それが竹兄だって解った時。真っ黒い塊みたいな見えない何かが喉に閊えて、息苦しくなったような気がした。
『ああ…こういうのが多分『殺意』って言うんだ』
――知らない奴に話しかけられたら。取り敢えず全速力で走って逃げろよ?――
竹兄に初めて頭を撫でてもらった時の事急に思いだしたけど。
『ごめん竹兄。――俺今から、約束破る』
閊えてた黒い塊を飲み込んで覚悟を決めた俺は校舎裏から飛び出して、グラウンドのコース上に並んで止められてたスクーターとバイクめがけて走った。
「――成瀬!」
「来たぞあいつだ!!」
流石に隠れる所が無いグラウンドだから直ぐに見つかったけど。あいつ等や竹兄のところじゃなくて一目散にマシンのところまで駆けて行った俺は。
あいつらがこっちに辿り着く前に、大きく左足で踏み切ってジャンプして。スクーターの左のハンドル辺りを右足の裏で思いっきり蹴り飛ばした。
俺に踏みつけにされて呆気なく強化プラスチックのカバーがバリバリと音を立てて壊れて、ライトのガラスが砕け散ってブチブチと配線が千切れて、首がもげるように破砕されて遠くに飛び去って隣のミニバイク諸共倒れる。
「いちだい…」
バイクとスクーターの最大の弱点はハンドル回りだって、今まで何台か壊して(←)学習してたからこんなのは序の口だけど。
「嘘だろ、蹴っただけで壊れた!?」
「何だあいつ、化け物か!」
一緒に倒れたミニバイクには、車体に似合わない気持ち悪いほど大きな空き缶みたいなマフラーがついてたから、
「コレうるさいんだよな…」
その空き缶もどきを思いっきり踏みつけてひしゃげさせて再起不能にしてやったところで。
「にだい…」
ようやく奴らが御揃いで俺のことを取り囲んできた。
「成瀬てめぇ!」
「殺すぞ!」
ああなんだ。この台詞は何となく覚えてたけど。こいつらの顔は全く覚えてない。
「俺は成瀬じゃねえから――お前ら全員『ハジメマシテ』だ。それから…」
――お前らこそみんな死ねばいいよ。
最初に殴りかかってきたひとり目の右手の拳を態と懐に入るように躱してしゃがんだら。顎に頭突きを喰らわせる。
何か気持ち悪い鈍い音がして。そいつは勝手に後ろ向きに吹っ飛んでった。
「ひとり…」
時々、自分の身体なのに自分で動かしてるような感覚が無くなることがある。
なんていうか。自分の中に誰か別の奴が居て。そいつに動かされてるみたいだ。
それが現れるのは決まってこういう。どう見てもピンチでしかないような状況の事が殆どだけど。
何故かその、違和感じゃないけど不思議な感覚に委ねて体を動かすと。
相手の動きがスローモーションだったり、時には止まって見えるくらい遅いから絶対に相手の攻撃は当たらない。
俺ってこんなにいろんな技知ってたのか?って自分で驚くほど沢山の足技や関節技や体技を繰り出してる。
俺が吹っ飛ばした奴を払いのけて、馬鹿の一つ覚えみたいにまた右手で殴り掛かってきた二人目に。
素早く左足を軸に後ろに半回転して拳を躱して。回転の勢いで右足を抱えるくらい曲げてから、相手の鳩尾より少し左をめがけて後ろ蹴りで蹴り上げると、面白いくらいあっけなく飛んで行って、地面でバウンドして土埃が舞った。
「ふたり…」
「てめえ!!」
「殺すぞコラァ!」
「死ねよ!」
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