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最後にその名前で呼ばれたのは何時だったかも思い出せなくて、直ぐに反応できなかったけど。
「――そうだよ?」
竹丘さんはまた辞書を捲って何か探し始めてから。
「えぇと…。何々?
りょう【領】
1 首筋。うなじ。
2 着物のえり。
3 重要な部分。
4 中心になって取り仕切ること。またその人物。
5 先頭に立って率いる…
だってさ」
ひととおり読み上げた後、差し出されたページにひととおり目を通す。
「御前『領』の意味は知ってたか?」
「――知らない」
そんな事考えたこともなかった。
竹丘さんはまた俺から辞書を取り上げて、『領』の目を読み返しながら。
「御前が自分の名前を決めるのに意味を重視したように。『領』にも、もしかしたら意味があったんじゃねえか?って思っただけ。まあ、うなぢとか襟とかはアレだけど。きっと最初は、オマエの父ちゃんも母ちゃんも。御前に『人を導ける人になって欲しい』って願ってたんだろうな…」
読み終わって上がった視線とぶつかって、思わず目を逸らす。
「――」
「――というのは置いておいて。良いんじゃねぇか?『オノサトリ』。御前の覚悟と願いが込められてる、良い名前だ」
そっぽ向いてたから急に頭に手が乗ってきたのにびっくりしたけど。そのままよしよし、と撫でられて。直ぐに穏やかな気持ちになる。
「ありがとう」
ずっとこのまま撫でられてたいなぁ。って思ったのに。呆気なくその重さが消えて寂しくなる。
「4月からは御前の事「小野」って呼ぶようになるのか…。暫く間違えそうだなぁ」
このタイミングなら行けそうだ!
「あの…!――ひとつ竹丘さんにお願いがあって…」
目なんか合わせられなくて。ぎゅ、って制服の膝握りしめながら俯いて思い切って話を切り出した。
「何だ?」
「俺も建君みたいに、竹丘さんの事「たけにー」って呼んでもいい?」
隣を見たら。胡坐掻いた膝に肘ついて、頬杖しながら少し首を傾けて俺の話聞いてる竹丘さんは。
ふーん。なんて鼻鳴らすような返事してから。
「可愛い顔してると得だよなぁ」
苦笑いが返ってきて。これは許してくれたのか拒否なのかわからない、って戸惑うしかない。
「コッチの話だ――呼び方くらい好きにしろ」
ほら帰るぞ。って立ち上がりながら差し出してくれた左手に右手を預けて。
「有難う、たけにー」
初めて呼んでみたら。なんだか胸がくすぐられたみたいな気がした。
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