12
家で勉強するとか面倒臭い。
「遠慮すんなよ。言っとくけど俺人にモノ教えるの得意だぞ?」
頭のいい人は自分で解ってるんだろうけど。
俺みたいな普通な人が理解するにはとてもじゃないけどついていけないんじゃないかと思う。
「だって偏差値75オーバーの竹丘さんに教えてもらえる処のLv.まで達してないし」
って遠慮してるのに。全然この人は人の話聞いてない。
「俺が教えるからにはどんな残念な脳ミソでも1年でちょっとデキる奴程度にはしてやる――今度の3学期末の期末テストの結果と通知表。俺の処にも持って来いよ?」
何処を重点的に補強するか見てやるから。なんて具体的な指示が飛んでくる。
「ええ?やだよ…」
「嫌じゃない!!2学期の通知表は親父さんと母ちゃんには見せたんだろ?」
此処に来てから二学期の中間期末テストがあったから。それの結果をもとに何時もと変わらない程度の成績はついてたけど。
生活態度については相変わらず、この頭の事について凄くいろいろ書かれてた。
「――…」
持って帰っては来たけど。お父さんお母さんには実は見せてないのを、竹丘さんに感づかれた。
「おいおい。まさか見せてないのか」
「だって見せろって言われてないし…。今まで誰にも見せたコト無いし」
視線が痛くて竹丘さんから目を逸らしたら、舌うちが聞こえてきて。
「成瀬!おーまーえー!!」
どん、って突然俺より大きなカラダが目の前に立ちふさがって、肩を手で押された。
「あ」
抵抗するまもなく後ろにあったベッドに倒れこんだら。
『嘘!?』
俺の腰またいで馬乗りになった竹丘さんが。俺の事見下ろしてきた。
両手が腕の横に衝かれて。
顔が近づいてくる。
『なんだコレ!!何!?――』
「…っ」
どうしたらいいかわかんなくて。固まってるしかない。
「どーした成瀬、変な顔して」
ドキドキして空気がほしくなっていよいよ口をぱくぱくとさせるしかない俺を見て。竹丘さんに怪訝な顔されたけど、
ドアがノックされて。
『領君、入っても良いですか?』
お父さんの声が廊下から聞こえて、こんなトコロ見られたらどうしよう、って混乱して。
「あ…ハイ!!」
目の前にいた竹丘さんの腹と胸を両手両足で思い切り突きはなしながら起き上がって返事をした。
「ぅわッ!!」
竹丘さんはベッドから40㎝下のフローリングの床に転げ落ちたけど。
「あ!ごめん!!」
うつ伏せのままフローリングにたたきつけられた竹丘さんに慌てて謝ると。
部屋に入ってきたお父さんが。竹丘さんを見下ろして。
「――何ですかマサヒコ…オマエが騒いでいたんですか。帰ったなら下にひとこと言いなさい」
なんて、呆れた顔で言うけど。痛みをこらえて悶絶してる竹丘さんはその声に応えてる余裕はなくて。
「…ってぇ…なコラ成瀬!!」
って俺に文句を言うけれど。お父さんが大きな封筒を幾つも持って現れたって事は。
「お父さん。――もしかして、この間話した事ですか?」
この話はすぐにでも聞きたかったから。悪いけど竹丘さんに構う余裕なんかなかった。
「ええ。市役所と、知り合いの弁護士に聞いて来ましたよ?」
今大丈夫ですかと尋ねられて。はい、と答えたら。
「マサヒコ。悪いが少し出ていてくれませんか?」
領君と大事な話がありますから。とお父さんが珍しく竹丘さんに有無を言わせない様子で指示するから。
「何だよ…」
まだ痛いのか腕を摩りながら、床から起き上がって出て行きそうになる。
「――お父さん、竹丘さんにも聞いてもらいたい…です。ダメですか?」
って言ったら、竹丘さんが振り返ってきたから。黙って頷いたら。開きかけたドアを閉じて戻ってきた。
お父さんに机の椅子を勧めて。
俺と竹丘さんは並んでベッドに座ったのを見計らって。
お父さんは封筒から書類やリーフレットを取り出して机に並べ始めた。
「領君が希望している改名には主な方法は2つあります」
「――改名?」
隣でつぶやく竹丘さんの声を、俺は聞こえない振りをした。
「新たな養子縁組で姓を変える。これは領君も幾度か経験済みですね?もうひとつは完全な『改名』ですが。通称を使い続けてある程度実績を積んでから裁判所に申し立てる方法です。弁護士の先生によると、最低でも5年は通称で通す必要があります」
俺が求めている、完全な独立ができる「改名」にはそんなにも時間が必要なのか。
「5年…」
って茫然自失となった俺に。お父さんは優しく声を掛けてくれる。
「どうでしょう領君。通称を希望するなら、変えるタイミングは中学校卒業した後の来年4月以降と言うコトにしませんか?」
5年も待たないといけないなら。今すぐにでも初めて一日でも早く変えられるようにしたい。俺は首を振ってそれは拒否した。
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