10
「だから隙が無いし、手を解いて逃げられなかったんだ…」
「どうだ?――今日は、放課後の三年生の追っかけが無かっただろ?」
「うん」
「表だって目立つ悪いヤツラも、シャケがバカみたいに強いって知ってるから。御前がそのお友達だって解ったらそうそう仕掛けて来なくなると思うぞ。悪くねェ話だろ」
多分そういうアナウンスを『シャケ』が3年生のフロアで今日広めたから、突然環境が良くなったんだろう。
「――友達じゃねぇし」
「じゃあダチじゃなくていいから。100歩譲って『腕の立つ知り合い』ってコトにしておけ。――今時携帯に名前載せるだけで『友達だ』って言い張って何百人登録するのが当たり前なご時世なのに…オマエケータイにどれだけ登録あるんだ?」
竹丘さんは携帯を取り出しながら、俺にも出すように促してきたけど。
「――持ってない」
って言ったら。隠してると思われたのか。少し黙った後で。
「嘘吐け」
初めて『此処になら居たい』って思える家だったけど。やっぱりどうなるかはわからないから。
「――どうせまた直ぐに引っ越すし。要らなくなる連絡先になるから必要無い」
って言うのに。竹丘さんは全然俺の話なんか聞いてない。
「成瀬。明後日の――土曜日は予定開けておけよ」
「何で?」
おいおい、と大げさな欧米人みたいに肩をすくめて見せた竹丘さんは。
「この話の流れで『ケータイ買いに行く』以外一体何があるんだ」
なんて言い始めるから。思わず鼻で笑ってから。
「だから。どうせ此処からもすぐ居なくなるし必要な『無くならない!』――…」
突然フローリングから立ちあがった竹丘さんは。ベッドに座ってた俺に詰め寄って、両肩掴んできてぐらぐら、と視界が揺れるくらいゆすぶられた。
「俺達はオマエを諦めないし盥回しになんかしない!――御前が出て行かない限り、此処がこれから先ずっと成瀬領の帰る家だ」
言ってて恥ずかしくないのか、って思うくらい熱い台詞を目の前で聞かされて。
「――…」
見下ろしてくる竹丘さんの顔が。凄く本気で言ってくれてるんだって伝わる表情だったから。
どうしよう。なんで俺、こんなところで泣けてくるんだろう。
俺がぎゅ、って唇かんでるの見て少しうろたえた竹丘さんは。
「――親父殿も母ちゃんも、オマエの事俺と同じように育てるつもりで居るからな。2人の前で絶対にそんな事言うなよ?」
解ったか?って今度は優しく声を掛けてくれる。
声を出したらそのまま泣くって解ってたから。黙って頷いたら。
痛かったよな、って謝りながら、竹丘さんは掴んでた俺の両肩から慌てて手を外して両手を小さく万歳してみせた。
「っ――とにかく!土曜日は出かけるからそのつもりで居ろ」
「――…」
うん。とまた黙ったままで頷く俺に。
「悪かったな。じゃあ…お休み」
竹丘さんは部屋を出て行って。隣に戻るのかと思ったら、何故かそのまま階段を下りて行く足音が聞こえた。
ベッドに寝転がって。うつ伏せになって枕に顔を押し付ける。
『俺たちはお前を諦めないし。盥回しになんかしない』
俺の目を見てそんな事話してくれた人は。竹丘さんが初めてだ。
その日の夜は思い出すだけで何度も涙がこみあげてきて。
何だか次の日は寝不足だっていうのが自分でも解った。
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