7

3年なら俺の教室の一つ上の3階に居る奴のはずで。


俺より早くここにたどり着いたって事は。授業サボってこんなところに居たんだろうかなんて、ろくでもないから関わらないようにしようって思ってたのに。


「あ。君、ナルセリョー君ですか!?」


校門を通った所で突然フルネームで呼ばれたからいよいよ『こいつは知らない奴だから敵』って認定して、


「――」


黙って走り出そうとしたら。


駆け出す間もなく突然左の手首を掴まれて、がくっ、って言うくらい急ブレーキがかかって引き留められた。


「たけにーに言われて迎えに来たよ?――リョー君。一緒に帰ろう?」


引っ張っても振りほどこうとしても、手首は痛くないからそんなに力を入れられてるわけじゃないって解るのに。全く振りほどけないから少し怖くなる。


詰襟の制服の男子生徒2人が手を繋いで下校する風景って、周りから見たら異様なんじゃないだろうかと思うのに。


突然現れた謎の3年生は。俺の左手首掴んだままで歩き始めた。


「いやー。まさかあの噂の2年生金髪ドレッドの『ナルセリョー』君がたけにーのトコに来た子だったって知らなかったよ」


後姿の謎の3年生は、サラサラの茶髪が歩くたび揺れて。


「リョー君?」


時々振り返って返事を促してくる笑顔は。俺が言うのもなんだけど。コレホントに男なのか?って思うくらい可愛い顔してる。


でもやっぱり知らないからには気が抜けないし、何より手首の手が外せないくらいこの謎の3年生には隙が無い。


久しぶりに遠回りじゃなくてまっすぐ神社の階段の下まで戻ってきたから、多分4時前くらいだろう。


90段の階段見上げた謎の可愛い3年生は。


「久しぶりに宮司様にもたけにーにも会いたいし。――寄って行こうかな」


よし、行くぞリョー君!競争だぁ!


漸くずっと掴んでた俺の手首を解放して。

やるなんて言ってないのに、勝手に階段を駆け上がり始めた。


町を歩き回る気もないから。仕方なく、俺は階段を歩いて登る。


「どーしたのリョー君!早く早く!」


異様に元気な謎の可愛い3年生は、もう半分は駆け上がってるのに息も上がらないまま俺を見下ろしてくる。


いつも通りに早くも遅くもなく淡々と90段の階段の足元を見つめて歩いてたら。


「わー!!着いた~!!久しぶり過ぎて疲れたー!」


何処が疲れてるんだよ、ってツッコミたくなるほど元気に騒いでる声が上から降ってきて。俺もほどなくたどり着こうかってところに。


「あ!!宮司様だ!]



早く来いって言っておきながら、謎の3年生は遠くで竹箒を持って掃除してた竹丘のお父さんを見つけると俺を置いて走って行った。


髪が踊る勢いで腰を曲げて挨拶しているところを見ると。どうもこの神社とも竹丘さんとも縁のある人のようだ。


あ。そうか。『たけにー』ってのは『竹丘のお兄さん』の意味なんだ、って今更気づいて、あの人の関係者だって解る。


そういえばさっき『たけにーに言われて迎えに来た』って言ってたって事は。


昨日のうちに竹丘さんが何か手をまわして、この謎の3年生を俺のところに寄越したんだってことは解ったけど。


『余計なお世話なんだよ…』


こういうのはあんまり好きじゃない。――って不機嫌になってたところに。お父さんに挨拶終えた謎の3年生が戻ってきた。


「久々にお参りしてから…たけにーを待とうかな」


一緒にお参りしよう!ってまた手を出されたけど。まさかお父さんの前で手を繋げって言ってるのかと思って手を後ろにやって必死に首を振ったら。




「えー?解ったよ、じゃあとりあえず行こう」


手水舎まで行くと。謎の3年生は迷わず手酌を右手に持って水を掬った。


俺は『手水の作法』って看板見ながら、その順番に手を濯いでるけれど。謎の三年生は看板なくても慣れた手つきで一通り終えると。俺が終わるのを待ってた。


「リョー君も竹兄もちゃんと毎日お参りしてるの?」


「――」


黙って首を振ると。


「俺のトコよりずっと長くここを護ってる鎮守さまなのになぁ」


もったいないよ。なんて。


顔に似合わず意外に真面目な事言いながら、神社で一番大きな建物の『拝殿』の5段の階段上って財布から出した100円をそっと賽銭箱に落とし込むと。


鈴尾をガラガラ、と鳴らした。


ぺこり、ぺこり、と面白いくらい髪を躍らせながら礼を繰り返して。本気で神様呼び出そうとしてるのか2回手を打ち鳴らすと。手を合わせてじっとうつむいて何事かつぶやき始めた。


俺も真似して財布から同じように100円出して。大きい鈴を鳴らしてから二回礼、二回拍手してそのまま手を合わせる。


『――』


形を真似してるだけで特に何お願いすることもなく10秒くらいで起き直ったら。


隣でじっと見てた謎の3年生が。

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